世にも珍妙な クリスマスCM ワースト5:失業中コピーライター(55歳)の告白

このコラムの著者、マーク・ダフィ(55)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していたが、2013年に解雇を通達された業界通コピーライター。趣味のホッケーは結構うまい。

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クリスマスが近づいてきた。神聖な祈りをすべて忘れたブランドたちが、善良な市民から我先に金を吸い取ろうと、緑と赤にドレスアップする日だ。クリスマスCM競争は年々悪化するばかり。クリスマスCMといえば、毎年恒例となったイギリスの百貨店ジョン・ルイス(John Lewis)のものが有名だが、それに続いて世界中でブランドがクリスマスにあやかろうと、酷い広告を作っている。今年もなかなか見応えのある惨事となっているようだ。

以下が、クリスマスでセンチメンタルになった人々の気持ちに取り入ろうとする、ブランドたちの失敗作だ。順番に特に意味はない。

アップル「フランキーの祝日」(2:00)

「それはクリスマス前の悪夢。人々が街中を逃げ回る。人々の阿鼻叫喚がこだまして…」って、これハロウィン用のクリエイティブかな? したら、電球はオレンジの方が良くね? 

極めつけは最後のメッセージだ。「すべての人に心を開こう」。そう、相手が怪物でも関係無いんだ。どんな相手でも、心を開こうよ、皆。なんとも安っぽいメッセージじゃないか。

いや、もちろん認める。この広告(TBWA/Media Arts Lab)の完成度は見事だ。ディレクターのランス・アコード氏は、2013年にもAppleのCM「誤解(Misunderstood)」で、エミー賞を取っている。このCMは、クリスマスの親戚の集まりで、ずっとひとりで携帯をいじっている少年が、実はファミリー・ビデオを撮っていたことが最後に分かるというストーリーだ。そして、それを見た視聴者は声を揃えて、「こんな奴いねーよ!!」と叫ぶ仕組みだ。

ティム・クック、クリスマスに我々へ贈り物を届けたいなら。陳腐化した馬鹿高いアップル商品をなんとかしたらどうだろうか?

アルディ(Aldi)「人参のケビン」(1:00)

アルディは、特売スーパーマーケットチェーンのブランドだ。彼らのグローバルエージェンシーであるマックカーン(McCann)はリテール物のコマーシャルでは、近年のヒットだった「ブランド商品とほぼ同じ、ただ安いだけ(Like brands, only cheaper)」というキャンペーンをアルディで展開している(2011年のこのお茶を使ったスポットは最高だった)。

しかし、残念なことにアルディは方向転換をしたようだ。しかも悪い方向に。今回のクリスマスCMはアニメーションの人参(名前はケビンくん)が主人公の平凡なものになってしまった(ちなみにイギリスのCMなんだから、なぜ人参ヘアーのハリー(王子)って名前にしなかったんだろうか)。

ケビンくん、どうやらものすごくサンタクロースに会いたいらしい。CMはサンタクロースのために、暖炉横に置かれたミンスパイを目指して食卓を横断する、一大アドベンチャーになっている。可愛らしい人参が、いろいろな危険をくぐり抜け、最後はミンスパイの横で居眠り。目が覚めたら、サンタのトナカイに乗って、ロンドンの大空を飛んでいるという、心温ま…

るのか? これは。

人参のケビンが生きているってことは、ほかの食材ももとは生きていたってことだ。ホカホカと湯気を出すマッシュトポテトも、ポテトのトム君が熱湯に入れられてすり潰されたってことだろう。実際、切り刻まれた人参のひとつには顔がついていて、なんとも悲しげだ。ケビンの弟かもしれない。

最後もサンタに連れられて、ハッピーエンドな雰囲気に仕上がっているが、よく考えるとなんとも不吉な予感がする。サンタの家に帰ったら、トナカイに生きたまま食べられるのだろう。

レクサス(Lexus)「思い出の12月、『でっちあげ』」(0:30)

エージェンシー・チームワン(Team One)による、この散々なキャンペーンには、5つのスポットが作られている。どれも話の要点は自己中心的な親が、子どもを利用してサンタクロースを詐欺にかけ、レクサスを手に入れようとするというものだ。

キャンペーンのコピーラインは「願い事をするのなら…大きな願い事にしよう」。せっかくなので、私がもう少し正確に書き直しておくと「人を騙して利益を得たいなら…とことん騙せ」になる。ほかのスポットも見たければ「アドウィーク」がまとめている

もしも、人間社会に絶望して出家しようかと迷っている人がいれば、このスポットを見れば最終決断ができるだろう。

メルセデス・ベンツ「雪休み」(1:00)

どんな大雪の日でも、若くて親が超リッチなら映画デートができるという話。産まれた瞬間に人生勝ち組が決定している子どもふたりが恋に落ちたら、何も彼らを止めるものはない。雪が降っていても、おそらくアル中の金持ちの父親も、死ぬほど憂鬱な気分にさせるサウンドトラック(Sleeping At Lastによる「Make You Feel My Love」カバー)ですら、ふたりを止められないんだ。

「お父さん、ポップコーンも買いたいから、500ドル(約5万円)ちょうだい」って、台詞が甘酸っぱいじゃないか。

え? そんなこと言ってなかったって? 確かに言ってるように聞こえるんだけどな。ちなみに安い車に乗っている人に、幸せは来ないってのも、このCMのメッセージだ。そういう人は家に閉じこもってろってこと。

メイシーズ(Macy’s)「旧友」

ストーカーのサンタがメイシーズのパレードを抜け出して、北の田舎まで昔の友人を訪ねるこのスポット。どうやらこれが薄気味悪いと思ったのは、私だけではないようだ。エージェンシーはBBHニューヨーク。サンタは、もともと白髪の老人男性が大きな荷物を抱えて、子どもたちの眠っている家に侵入するって話だから、いまさら驚きではない。

最後に、いつも文句を言ってばかりなので、私が気に入っている祝日キャンペーンの広告をひとつ紹介したい。

ホテル・トゥナイト「トニー」(0:20)

「訪ねるのは良い。でも泊まったらダメ。(Visit, Don’t Stay.)」

ホテル予約アプリ「ホテル・トゥナイト」のこの広告は、サンフランシスコのエージェンシー・オッディセウス・アームズ(Odysseus Arms)によるもの。

年末に親戚の家の集まりに参加して、「しまった家に泊めてもらうんじゃなくて、ホテル予約しとけば良かった」という世界中のあらゆる人の後悔を鋭く捉えている。陽気で不気味な叔父さんのマジックショーを延々と見せられたときの気持ち、そんな叔父さんがいなくても誰でも理解できるのが不思議だ。

実はクリスマスではなくてサンクスギビングの広告なのだが、まぁそんな小さいことはどうでもいい。「アドウィーク」でプリント版とビデオ第2弾が見られる。

ひとつと言ったかもしれないけれど、「ブリタリア(Britalia)」と題された、このハーヴェイ・ニコルス(Harvey Nichols)のホリデーコマーシャルも好きだ。これはルイージ・ピランデッロの戯曲のワンシーンにまったく不正確な字幕を付けてある。エージェンシーは、アダム&イブDDB(Adam&EveDDB)。

【 マーク・ダフィ氏の連載<記事一覧>はこちら

Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)