ドナルド・トランプ支持はNG?:米広告業界人が保守党支持を隠す理由

「この業界には、逸脱してはならない暗黙の掟がある。広告業界人=民主党(リベラル)支持という掟だ」

保守政党を支持するアメリカ人にとって、広告代理店という世界は非常に居心地の悪い場所となった。波乱の大統領選挙を控えた2016年、共和党(保守)支持の業界人は、かつてない疎外感を感じている。

これは、皮肉な話ではある。クリエイティブ業界の一員として、広告代理店の文化は寛容を旨としているはずだが、複数の広告代理店の社員数十人に話を聞いた結果、ひとつの傾向が浮き彫りになった。つまり、「広告代理店という世界は、個人の主義主張が『正しい』限りにおいて、寛容な態度を示す」ということらしい。そして、共和党支持であることは、現在もっとも「正しくない」のである。

本記事の取材において、米DIGIDAYは多数の業界人にコンタクトを試み、そのほとんどにコメントを断られた。そのうちの数名は共和党候補者に対して公に寄付を行っている(連邦選挙記録によるとジェブ・ブッシュの選挙活動に2700ドル(約29万円)を寄付している某広告代理店幹部も、本記事の内容を聞いた後に、代理人を通じてコメントはしない旨を伝えてきた)。

広告代理店の広報担当らは、「自社内に共和党支持者がいるか知っているか?」という質問にも答えようとはしなかった。いわく、「表立って共和党支持であると言明する人はいないと思う」とのことだ。

「広告代理店の社員は特に、自分の政治観については語らない傾向が大きい」と、ある代理店幹部は述べている。「個人の政治観がプライバシーと捉えらえるようになった昨今、政治観の共有はタブーになっている」。

「保守=偏狭」というレッテル

別の大手代理店幹部(匿名希望)は、自分が共和党支持者であるという事実を「常に意識している」という。「クリエイティブ=オープンで自由主義」という暗黙の掟があり、オープンかつ自由主義であるということは、政治的に左寄りを意味すると同氏は語る。(これは個人的な見解ではなく、ニューヨークには「芸術における保守派の会(Conservatives in the Arts)」というグループがあり、左寄りの人材に独占されている業界で保守を信条とする人々が集まっている)。

同氏によると、前回の大統領選の際には感じなかったが、今回は保守へ反発を感じているという。同氏は大統領候補としてテキサス州選出テッド・クルーズ上院議員を支持しているが、保守派にネガティブなイメージがつきまとうことに辟易している、と語る。「共和党支持者イコール差別的で心が狭い、と見られてしまう」。

偏狭を嫌うはずのリベラルが、保守に対しては偏狭であるという矛盾を、同氏は指摘する。「広告代理店という世界には、なんでもオープンに話せる文化があるとされているが、保守寄りの意見はオープンに話せない。保守=偏狭というレッテルを貼られてしまうからだ」。

この幹部は、ソーシャルメディアでもミーティングでも政治の話はめったにせず、政治関連の話は家族としかしないという。理由のひとつは反発の恐れ、もうひとつは、自分の立場で政治の話をすれば、「保守派の代表」にされてしまうとわかっているからだという。「保守党支持であることはおろか、信仰心があることも知られたくない。広告における保守派の旗手にされてしまうのはかなわない」。

共和党シンパと思われるようなことを少しでも言おうものなら、恥知らずだと非難されるようだ。ある広告代理店の社員は、「3月15日の予備選における勝利宣言スピーチは、ヒラリー・クリントンよりもドナルド・トランプに分があった」と発言して大ひんしゅくを買い、トランプに投票すると言ったわけではない、と釈明しなければならなかったという。

代理店の幹部たちが、共和党支持を隠す理由はほかにもある。広告代理店は、信条がリベラルでも、(保守派の象徴である)タバコ大手などの仕事もやってのけることを過去に証明済みだ。「あの会社は保守だ、と思われると、人材を失ってしまうことになる。クライアントも失うかもしれない」。

広告業界が左傾する理由

広告代理店に限らず、米国の労働人口を変えた要因として、若い世代の就労が挙げられる。広告代理店の世界は、若い才能を頼りにしているが、若者には民主党支持の傾向が強い。ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)によると、ミレニアル人口は51%が左派または左寄りを認めており、民主党支持層がもっとも多い世代だ(ちなみに、共和党支持層にもっとも多いのは、高齢のいわゆるサイレント世代)。「業界は若い世代が主力になってきているので、ますます肩身が狭くなってきている」と、前述の共和党支持の代理店幹部は言っている。

広告業界の左傾には、別の特徴も関連している。まず、大都市では民主党票が多い。たとえば、2012年のバラク・オバマの勝利は、都市部での大量票による部分が大きい。こうした都市部の票を投じた有権者の職業にも、政治観の傾向との関わりが現れている。2012年のオバマの勝利の後に行われたシティラブ(CityLab)の調査によると、「クリエイティブ層のシェア」、つまり科学技術、芸術、文化、娯楽といった業界に携わる層の割合と、「オバマ票のシェア」の明らかな相関関係が示されている。

共和党は金持ちに支持される政党と一般に認識されているが、米国の「豊かな大都市」つまりニューヨークとサンフランシスコでは、過去二期の大統領選挙サイクルにおいて、民主党支持傾向が強くなった。これらの都市では知的労働者が多いからだと識者は説明している。リーダーシップと人的資源の研究を専門とするニューヨーク大学非常勤教授、レスリー・オースティン氏は、「教育に金をかけられた層は、一定の世界観を持つようになる」と述べている。オースティン氏は、メディアとマーケティングに携わる広告業界リーダーのコーチングを行っており、こうした「説得力のある仕事」をしている人々は、職場の集団的思考に影響力を持つとしている。

ロングアイランドのKZSWアドバタイジング(KZSW Advertising)の主任であるマイク・ウェルチ氏は、政治的に中立であり、2012年には、共和党候補とバラク・オバマの両方に寄付をしたという。しかし、今回は「政治の舞台が荒れており、政治観が異なる人々の対話が難しい」と述べている。

クライアントベースのサービス業では、さらに難しくなる。広告代理店幹部たちによると、人前で政治の話はしたくないし、共和党支持者だと目されるのも困るという。「会社の代表として行動している以上、自分の政治観が会社のそれだと誤解されたら困る」と、前述のテキサス人幹部は述べている。「しかし、リベラルならば、おおっぴらに自分はリベラルだと叫んだところで何の問題もないのだ」。

右派政治家御用達の代理店も

民主党寄りで知られる著名な広告代理店幹部の存在も、保守派にとっては居心地の悪い空気を生み出している。たとえば、ドローガ・ファイブ(Droga5)のデビッド・ドローガ氏は、公然とヒラリー・クリントン支持を表明しており、彼のエージェンシーはクリントンのキャンペーンを担当している。DDBの北米CEOであるウェンデイ・クラーク氏も同様であり、2015年後半、クリントンの選挙活動を支援するべく長期休暇を取り、大きな話題となった。GSD&Mの共同設立者であるロイ・スペンス氏も、クリントン支持で良く知られている。これは同氏の仕事ぶりにも表れており、エージェンシーのバレットSF(BarettSF)では、サンフランシスコの街で犬のフンに「トランプ」の旗を立てる実験的なキャンペーンを行っている。

もちろん、共和党寄りのエージェンシーも存在しており、共和党とその候補者の仕事を請け負うことが多い。右寄り傾向が強い政治家御用達の代理店、エンゲージ(Engage)の主任でもあるデビッド・アルマシー氏は、共和党候補ジョン・ケーシックの選挙キャンペーンでアドバイザーを務めているが、共和党支持であることは別に隠すことでもなんでもないという。同社では左寄りの社員も雇用しており、「ワシントンDCでは、話が違ってくる」とアルマシー氏。「我々は、政治で食べている代理店だ。ワシントンのエージェンシーとしては、右も左も重要なので、社内には両陣営の人材が必要だ」。

しかし、共和党のジョージ・W・ブッシュ元大統領のインターネットディレクターを務めたアルマシー氏は、広告業界の共和党支持者が、政治観を隠していることには驚かないという。「勤め先のCEOがクリントン支持を表明していたら、黙っているのが得策だろう」と、アルマシー氏。「ここでは違う。仲のいい友達には民主党支持者もいる」。

テキサスのエージェンシーでアカウントマネージャを務めるローレンアシュトン・シェパード氏は、政治に熱心というわけではないが、自分は保守派だと認めている。「別に『保守です』と宣言しているわけではないが、自分の意見から保守だとわかるだろう」と、シェパード氏。「自分は銃を所有しているので、言わずもがなだ」。

シェパード氏は、保守の聖地テキサスですら、広告業界人の85%から90%がリベラルと見積もっており、自分が少数派であることは認識しているという。「周囲がリベラルなのは、いいことだ。周囲に流されず自分の意見を持つことの大切さがわかるし、多様性が生まれると思う。銃犯罪の話題などが出れば、議論に一石を投じることができる」。

Shareen Pathak(原文 / 訳:片岡直子)
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