G・ヴェイナーチャック、広告業界のトランプと呼ばれた男:ソーシャルメディアの風雲児

ゼネラル・エレクトリック(General Electric:以下、GE)の幹部ベス・コムストック氏とリンダ・ボフ氏は、2012年のSXSWでギャリー・ヴェイナーチャック氏と2時間、朝食をともにした。ヴェイナーチャック氏は、朝食を終えるとすぐに、パーティの開催をツイートした。2人が顔を出すと、すでにあたりに行列ができていた。DJがいて、ファンに囲まれたヴェイナーチャック氏がゲストにワインを注ぐなか、人々が踊っていた。

「それは彼が自分が説いたことを実践してみせる実験の場だった。見ればそのことがわかっただろう」と、コムストック氏は言う。

ヴェイナーチャック氏のソーシャルメディア手法と「目を覚ませ」という哲学は、感銘を受けるクライアントをたくさん生み出し、熱心な若い才能を引き寄せた。同氏はそれらを使い、ヴェイナーメディア(VaynerMedia:以下、ヴェイナー)を、ソーシャルメディアエージェンシーから従業員700人以上のフルサービス化に向かうエージェンシーへと押し上げた。ヴェイナーによると、売上は1億ドルで、2017年はこのまま行くと1億2500万ドルになるという。GEはヴェイナーの最古参のクライアントのひとつで、ほかに酒類メーカーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ(AB InBev)、銀行のチェイス(Chase)、食品・飲料メーカーのモンデリーズ(Mondelez)などがクライアントに名を連ねている。

ヴェイナーチャック氏はそのイメージによって、同じくらい妬みと嘲りの対象になった。ある者に話を振れば、ギャリー・ヴィー(ヴェイナーチャック氏はそう呼ばれている)がいかに現状をもて遊んでいるかを聞かされるだろう。また別の者に話を聞けば、彼は自分の人間的な魅力を使って、大きくジューシーな中身のないバーガーをクライアントに売りつけているペテン師だと説得されることになるはずだ。ある者はギャリー・ヴィーを、「広告業界のドナルド・トランプ」であると同時に「業界のアンドリュー・ブライトバート」だと称した。

ヴェイナーはにぎやかな急成長が続いているが、つまずきもあった。11月にはサンフランシスコのオフィスを閉鎖。1月と4月頭に、2回のレイオフを経験した。元従業員らは、獲得するビジネスを会社をあまりに大きく見積もっていたため、人員削減になったと語った。

ヴェイナーチャック氏の説明は異なる。同氏によると、「人が多すぎるとスピードが落ちる。私はスピードを大切にする」のだそうだ。

こうして大きくなった

確かにヴェイナーチャック氏は、ヴェイナーを大きくした。同社が発足した2009年当時、ソーシャルメディアのやり方を知っているブランドやエージェンシーはほとんどなかった。ヴェイナーは最初、大きめのブランドを扱う若いコミュニティマネージャーを中心に雇った。ソーシャルの予算が増えると、ヴェイナーは、GIFの作り方を、そしてこれがより大きかったが、マイクロコンテンツの価格の付け方を知っていたことで名前が売れた。当初のクライアントのひとつであるNFLチームのニューヨーク・ジェッツ(New York Jets)では、たくさんの選手にTwitterをはじめさせ、また、「J-E-T-S、ジェッツ! ジェッツ! ジェッツ!」というキャッチフレーズのバーチャル版など、ソーシャルメディアで目立つ動きを見せた。

ヴェイナーはその後、マイクロコンテンツとソーシャルメディアの制作から、「ストーリーテリング」へ、そしてフルサービスのエージェンシーへと方向を転換した。現在は、ドローガ5(Droga5)やドイッチェ(Deutsch)といったフルサービスの大手企業を相手に大きな宣伝の分野で競争している。

ヴェイナーチャック氏は、ヴェイナーのメディアと動画の制作能力を拡大し(ロングアイランドシティで新たなスタジオの開設を進めている)、「クリエイティブの火力」を発達させたと語る。

「この2年間でこの業界について多くのことを学んだ。広告業界は我々がプレイしているところへと向かっている」。

クライアントたちがコンテンツとソーシャルコンテンツの内製化について、これまで以上に議論を進めているなか、進化がはじまる。そこで、観測筋はヴェイナーの野心に対してためらいを見せる。当然、ヴェイナーチャック氏はこれに異を唱える。「業界のなかには、個人的に会えばFacebook動画が特異な存在ではないことを認めるような勢力が存在する。テレビCMにはまだ大きな威光が残っており、そのためお金の配分はあまり変わっていない」と、同氏は言う。

また、大きな野望の証しとして、ヴェイナーチャック氏は持ち駒に「パブリッシャー」を加えるなど、自分の帝国の拡大を進めている。ヴェイナーチャック氏は1月、女性向けライフスタイルを扱うパブリッシャーのピュアワウ(PureWow)を買収した。その買収契約の一環として、ピュアワウ(PureWow)を受け入れるとともに、さらなるパブリッシャーの設立と買収を担う新会社ザ・ギャラリー(The Galler)を設立した。ヴェイナーチャック氏はこの買収にあたり、RSEベンチャーズ(RSE Ventures)と提携。この会社の最高経営責任者(CEO)は、不動産開発業者でNFLチームのマイアミ・ドルフィンズのオーナーであるステファン・ロス氏だ。

この不動産人脈は、ヴェイナーチャック氏にとって人脈こそが命綱であることを示している。ロス氏は、10 ハドソン・ヤード(10 Hudson Yards)などのプロジェクトを抱える不動産会社のリレーティッド(Related)を所有しており、ヴェイナーメディアはこの高層ビルにテナントとして入っている。

ヴェイナーチャック氏はプロによるコンテンツ制作に関して、「パブリッシングがなくなるとは思わない」と語った。自尊心もある。「『パブリッシャーとしてのエージェンシー』を最初にやる人間になりたかった。それを自分が成し遂げられるのが嬉しかった。私はそうしたことが好きなのだ」と、同氏は言う。

ブロカルチャー

同じような多くの会社と同様に、ヴェイナーは元気のいい若い従業員の集団の力で成長し、その若者たちはぐんぐんと出世した。ヴェイナーでキャリアをスタートさせたある元従業員は、下級のコミュニティマネージャーから、3年という速いペースで出世した。別の元スタッフは、年収3万4000ドルのコミュニケーションマネージャーからスタートし、まず戦略担当に抜擢され、その後、コピーライティングの担当になった。出世が早すぎる場合もあり、あるスタッフによると、自分の関わっているプロジェクトなのに、自分が何をしているのかまったくわかっていない人がたくさんいたという。

それはまだ変わっていないようだ。ヴェイナーチャック氏は、今後2週間で71件の昇進を発表すると語った。

職場はせわしなく、めまぐるしく、ときに容赦なかった。ソーシャルコンテンツチームは、公開スケジュール厳守で仕事を進め、新しいコンテンツが毎日必要だった。ソーシャルコンテンツは多くの場合、スタッフ個人のiPhoneで撮影され、さまざまなブランドのソーシャルアカウントに配信された。正式には「三振でアウト」の方針だったが、ツイートのタイポひとつで解雇されたケースもあった。ブレーンストーミングのセッションが多く、ある元コミュニティマネージャーは、「ブレーンストーミングのパロディのように感じた」とも語っている。

それが当時のやり方だった。ソーシャルメディアのリスクをブランドは進んで負っていた。コミュニティマネージメントからキャリアをスタートした元従業員は次のように述べている。「ブランドは、適当に選ばれた24歳の人間がテレビCMを作ることを良しとしなかった。しかし、同じ人物がソーシャルメディアの実験をするのはOKだった」。

元従業員たちの話から窺えるのは、無秩序でブロ(ブラザー)的な企業文化だ。

もっと収入のいい仕事を求めて退職した元コミュニティマネージャーは、「大学に戻ったみたいだった。そして、私は大学を卒業したばかりだったので、それが気に入った。週末にはみんなで出歩いた。家族みたいだった」と語った。

別の元スタッフは、ヴェイナーなどいくつかの会社の面接が続いて、ヴェイナーとの予定のときにはキレイな服がひとつも残っていなかったと語る。そこで、彼は面接担当者にメールを送り、「アロハシャツを着ていく」と連絡。すると「君は溶け込めるよ」との返信があった。

昨年の夏には、ヴェイナーとスリリスト(Thrillist)が主催するパーティの招待状がフランスのカンヌで配られ、そこに「魅力的な女性とモデル限定」との条件があった(ヴェイナーチャック氏はすぐさまヴェイナーチャック流のやり方で対応した。遺憾なことであり責任は自分にあるとソーシャル動画で表明したのだ。この対応はバイラルで瞬く間に広がった)。

コラボレーション重視は行き過ぎの面があった。ある元スタッフによると、面接は「この人物となら一緒にビールを飲みたいか」が決め手になることが多かった。「それは悪いことではなかった。私は同僚とたくさんビールを飲んだ。しかし、後から考えると、あれは求めるべきもっとも重要なことではなかった。画一性が生まれた。内向的な人が入る余地がなかった」と、この元スタッフは語った。

そして、ヴェイナーチャック氏はすべてのことに関わった。あるスタッフは、同氏がやってきて自分がやった仕事について話をしたことを覚えている。ソーシャルメディアの名人であるギャリーよりも「一緒に座ってさまざまなことを記憶するギャリーが私は好きだった」と、このスタッフは言う。「起きていることを彼はいつも把握していた。誰が誰とくっついているのかまで知っていた」。

ヴェイナーチャック氏は、自分がすべてを把握していることを誇りとしている。同氏は、従業員にとって何が大事なのかを聞き出す「直観電話」をしょっちゅうかけるという。「お金なのか。それとも肩書きなのか。ワークライフバランスをもっと求めているのか。それを私は処理できなければならない。CEOとして私が提供する必要があるのは、給料なのだろうか? 休暇なのだろうか?」と、ヴェイナーチャック氏は語った。

成熟

そうした草創期の雰囲気を会社はいくらか脱した。ヴェイナーの元CFO(名刺には「CFbrO」とあった)で、11月に退職したスコット・ハイト氏は、離職率は「驚くほど低い」と語った。「もちろん去る者はいたが、戻ってくる者もいた。1万ドル多く稼ぐことは職を変える理由になりえないと気づくからだ」とハイト氏は言う。ハイト氏とヴェイナーチャック氏は財務の透明化を推し進め、売上と弱点を社内の誰もが把握していた。

勤続期間が3~5年の従業員は、いまや150~200人にのぼり、継続感が生まれているとヴェイナーチャック氏は言う。会社には現在、経営陣として、最高業務責任者(COO)、CFO、最高クリエイティブ責任者、「最高ハート責任者」などがいる。最高ハート責任者とは、人材と企業文化を担当する最高責任者のことで、これもまたニューメディアの肩書きだ。「我々は成熟した」とヴェイナーチャック氏は述べた。

ヴェイナーチャック氏は、職場における仲間意識はまだ推し進めたいが、同時に、仕事仲間と「ブルックリンのクラブに行く48歳」ではいられないこともわかっていると語った。

ヴェイナーチャック VS ヴェイナーメディア

ヴェイナーチャック氏をはじめとする全員が、この会社の大きな問題がギャリー・ヴェイナーチャック氏その人であることを認識している。会社は同氏の延長であり、クライアントは同氏がいるからヴェイナーと契約しているため、規模の拡大が難しい。

「ギャリーの大風呂敷の力で(ヴェイナーは)大きくなった」と語るのは、コンサルティング企業R3の共同創業者のグレッグ・ポール氏だ。R3は2017年、ヴェイナーを革新的なソーシャルメディアエージェンシーのトップ40のひとつに選んだ。「どのクライアントもヴェイナーチャック氏と仕事をしたいのだ」とポール氏は言う。

同時に、マーケターたちがソーシャルの内製化を進めている。モンデリーズはライターを増やし、アディダスはソーシャルニュースルームを準備している。「これがヴェイナーにとって課題になるだろう」とポール氏は語った。

競合相手はヴェイナーについて、ソーシャルをよく知らないクライアントにつけ込んでいる、事業を築くだけの信用はない、トランプで組み立てた家はやがて崩れる、などと愚痴をこぼす。業界の縄張り意識を窺わせる誹謗もある。かつて実家のワイン小売業を営んでいたヴェイナーチャック氏は、広告業界のアウトサイダーだからだ。ヴェイナーは米国広告業協会にすり寄らなかった。「(ヴェイナーチャック氏は)協会を巨大なベアハッグで受け止めた」と、ある大手エージェンシーCEOは賞賛した。「ギャリー氏には何もかもが不相応だ。特大の個性による特大の会社だ」とこのCEOは語った。

ヴェイナーチャック氏が磨きをかけた個人ブランドは、いまではTwitterのフォロワーが140万人いる。最近のとある平日、彼は正午までに4回ツイートした。ステージで行われたセールスフォース(Salesforce)とのインタビュー、ポッドキャスト「The Garyvee Audio Experie」のエピソード、それから、自分にとって心に響く言葉について。同氏は世界中を飛び回り、カンファレンスで講演し、最高額の講演料を請求する。クライアントがそうしたことを気に入っているのは間違いない。しかし、ほかの人たちからすると、事業経営とはビルのなかで行われるものだ。

「ヴェイナーはどこまで大きくなれるのだろうか? ヴェイナーはどのような姿になるのだろうか? ギャリーの大きさまでなのだろうか? あるいは、同氏の一部に留まるのだろうか」と、先述の元従業員は語った。

ヴェイナーチャック氏としては、自分のブランド構築活動と自分の会社の健全さとのあいだに摩擦を認めていない。

「人々は混同しているのだ。ブログを書いているから、私がここ(会社)にいないと考えているようだ。すべての時間の90%、私はこの会社のCEOをやっている。自分を出しているとは思うが、それが問題だとは思わない。つまり、シカゴ・ブルズのいちばんの弱点は何だったのかというということだ。それはマイケル・ジョーダンだった」と同氏は語った。

Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)
Image via 米DIGIDAY