「ときには、疑念を断ち切らなければいけない」:BBHのサラ・ワトソン氏

大手広告代理店BBHでグローバル最高戦略責任者を務めるサラ・ワトソン氏はこの15年間、プレイステーション(PlayStation)、Netflix(ネットフリックス)、ジョニーウォーカー(Johnnie Walker)、コールハーン(Cole Haan)といったクライアントのために仕事をし、数々の賞を獲得してきた。そのワトソン氏が、自信をつける方法や自分のキャリアでもっとも後悔していることなどについて語ってくれた。なお、この記事は、簡潔にわかりやすくするために編集を加えている。

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(英国の)ウォリントンで育った私は、町から脱出する方法ばかりを考えていました。両親はふたりとも公立学校の教師でしたが、自分たちと同じ道に進まないようにしなさいと、私に言い聞かせていました。当時の私は、『ヴォーグ(VOGUE)』を購読し、ファッション業界が逃げ道になるかもしれないと考えたものです。実際、(ファッションデザイナーの)ポール・スミス氏のオフィスでインターンシップをはじめましたが、ここは私の居場所ではないと判断しました。私が通っていたオックスフォード大学は、公立学校から来た学生が、あまりに恵まれた教育体制に自信を打ち砕かれるような場所です。実際、私もすっかり自信を失いました。

私が自分自身を表現し、自分の話すことや自分という人間に自信を持てるようになるには、かなり長い時間がかかりました。しかしいま、私の仕事をエキサイティングなものにしているのは、まさにこのようなこと――つまり人々が自分自身を表現できるように支援することです。ここでいう人々とは、同僚であったり、ブランドのクライアントであったりします。私には、自分の居場所を見つけた時期がはっきりわかっています。それは30歳のときでした。私がBBHに長いあいだ在籍しているのには、理由があります――ここには、私がそのような人間になるよう仕向けてくれる人たちが常にいます。たとえ私が道に迷っても、彼らが正しい道を示してくれるのです。

もっとも難しい決断

ときには、迷いながらも何らかの決断を下さなければならないことがあります。リーダーは常に疑いの心を持つべきですが、どういう形であれ、何かを行う責任を快く引き受け、どのような結果になっても、それを喜んで受け入れる気持ちになれるときがあるのです。

これまでで、もっとも難しい決断は、ニューヨークでの仕事を打診されたときでした。当時、私はひとり目の子を生みたいと考えていました。また、夫もロンドンで大きな仕事に就いたばかりだったため、出産休暇を半年取るのが当たり前の英国から、3カ月しか取得できない場所での就職を決心するのは大変でした。しかし、BBHの同僚のひとりが、言わざるをえなくなるまでノーという言葉は口にすべきではないとアドバイスしてくれました。そこで私は、3カ月の出産休暇を取った後、さらにもう1カ月無給休暇を取ったのです。この経験は私の人生を変えました。私はいま、4歳になる女の子がおり、ふたり目の子を産む予定です。いまの住まいはオフィスから6分しか離れておらず、通勤電車に乗る必要もないため、とても助かっています。

もちろん、これは誰にでも当てはまる話ではありません。仕事と子育てを両立させるのは無理だと考え、リーダーとしての地位から降りた人たちを私は知っています。これは先入観のせいではありません。仕事がとてもきついものになる場合だってあるのです。まるで45人の子どもを抱えているような状況になりかねません。家族のために夕方6時には帰宅したいと考えれば、とても大変なことになるのです。

唯一後悔していること

英国と米国のエージェンシー文化は、いくつかの点では似ていますが、遠く離れた惑星同士であるかのように異なる部分もあります。米国では広告の市場規模が大きいため、その文化ははるかにアグレッシブで熾烈です。英国のクライアントは、ブランドの価値について論じたり、話の流れに応じて会話のニュアンスを変えたりすることをよしとします。しかしここでは、もっと押しの強い、ビジネスライクな会話が中心です。

私が唯一後悔していることは、成長する過程でほかの人をもっとうまく活かせばよかったということです。自分の周りにいる人たちは、強さや力やエネルギーを与えてくれます。会社の上司は特にそうでしょう。私は権威というものを毛嫌いしながら育ち、支援してもらうために指示を仰いだりほかの人を活用したりしようとは考えませんでした。もし20代の頃に戻ってやり直せるのなら、自分よりうえの立場にいる人たちを、門番や自分を抑圧する権威主義者と考えるのでなく、強さをもたらしてくれる人と考えるでしょう。

10年ほど前、私はリラックスできなくなったり自制心を失ったりしたときにストレスに対処する方法を見つけました。ヒマラヤ山脈で開かれた瞑想プログラムに参加し、10日間誰とも話さずに過ごしたのです。これは、いままででもっとも強烈な体験のひとつで、のちに出産のような出来事にも役立ちました。静かにその場にとどまり、苦痛に耐え、心を平静に保てるようになったのです。おかげで、自分よりも大きな存在とつながり、より全体的な視点を持つことができます。

Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
Image courtesy of BBH