なぜエージェンシーの始業時間は遅いのか?:朝10時まで出社できない理由

午前9時半前後の始業は、メディアおよびマーケティング業界に特有の奇妙な習慣だ。

実例を挙げよう。エージェンシーのアイクロッシング(iCrossing)で最高人事責任者を務めるデビッド・サントス氏によると、多くの同社従業員は朝に自宅で働き、ジムでひと汗かいてから10時ごろに出社するという。従来型の勤務時間を強要する企業は、優秀な人材を集められないというリスクを抱えると、同氏は指摘する。

エージェンシーのヒュージ(Huge)の場合、公式の始業時刻は午前9時30分だ。だが、広報責任者のサム・ワトソン氏によると、同社には非公式の「やることさえやれば出社時間は関係ない」ルールがあるという。また、大半のエージェンシーでは長い朝食が当たり前で、ほとんどの従業員が9時半を過ぎてからオフィスに姿を見せる。

出社が遅くなる理由

こうなっている一因は、多くのエージェンシーが抱える「クリエイティブ」タイプの従業員が、「自分にとってベストのタイミングで働くことを必要とする」ことだと、サントス氏は指摘する。「柔軟さを許容することも、創作プロセスの一部だ」。

エージェンシーはまた、若手人材を多く雇用する傾向があり、彼らは遅くまで働いたあとで飲みに繰り出す文化を受け入れやすいと、ある幹部は語る。出版業界と同様に、締め切りは厳しく、遅い時間に設定される傾向がある。これはつまり、作業が往々にして、最善を尽くすために土壇場まで押すということ。そして、プロジェクト完了後に、祝杯の時間というわけだ。

「我々の始業が遅いのは、飲む機会が多いからだ」と、あるアカウントマネージャー(匿名希望)は語る。「しかもオフィスにはバーまである。もし会社が我々に早く来ることを望むのであれば、こんなものはなくすべきだ」。

しかし例外も存在する

ただし、遅めの始業が比較的受け入れられている業界とはいえ、必ずしも歓迎されていないことを示す証拠もある。本記事の取材で協力を求めた大手エージェンシーのうち、少なくとも2社は「誤った印象をクライアントに与えたくない」と述べ、コメントを拒否した。

また、こうした慣例には例外がある。遅い始業は、米国の東西両岸の職場に特有で、内陸部には当てはまらない面があるのだ。あるエージェンシーがコネティカット州に構えるオフィスで働くソーシャルストラテジスト(匿名希望)は、これを都市的な現象と見ている。この女性は、ニューヨーク市のオフィスに勤める同僚が働き出すのは遅めの時刻だが、コネティカットのオフィスは午前8時の始業を厳守していると話す。「たぶん、ニューヨークではみな長距離通勤をしているせいだろう」。

また、ニューヨークとカリフォルニア以外の場所にあるエージェンシーは、始業時刻が早いため、1日の仕事を早めに切り上げる傾向もある。「私が思うに、中西部の文化は、早めに出勤して、仕事を終えたら早めに帰るというものなので、そうした就業時間になりやすいのだろう」と、サントス氏は語る。

日中に静かな時間はない

一方、幹部自らが遅い始業の文化を少しずつ改めようとしており、風向きが変わりつつあることを示唆する例もある。たとえば、エージェンシーのTBWA\シャイアット\デイ(TBWA\Chiat\Day)では、午前8時30分から9時15分までのあいだ、朝食が提供される。これは、ニューヨーク支社でCEOを務めるロブ・シュワルツ氏が同社に加わったときにはじめた、従業員の早い出社を促すための作戦だ。

TBWA\シャイアット\デイのニューヨーク支社で最高デジタル責任者を務めるアキ・スパイサー氏は、朝早い時間に出社し、ときには夜明け前に出勤することもある。「1日がはじまる前の誰もいないオフィスが、私には貴重な時間だ」。そして、日中に静かな時間を見つけることはできない。そのこと自体が、「明晰な思考」を商品化する業界において異常なことだと、同氏は指摘する。「騒々しい日中の時間は、逃げるように過ぎていく」。

忙しいこと、あるいは少なくとも忙しそうにしていることは、この業界では必要とされている。しかし、創造性は表向き、本気で取り組むための静かで予定のない時間が必要なことを考えると、これは問題だ。それでも広告業界は、深夜や週末にも仕事があるため、昼近くの始業が一種のなわらしとなってきたと、スパイサー氏は語る。「クリエイティブなタイプは生まれつき夜型なのかもしれない。個人的に調査したわけではないが、ずっとそう思っている」。

そして多くの点で、デジタル化が事態を悪化させてきた。世界経済フォーラムがスイスのダボスで開催する年次総会のころ、TBWA\シャイアット\デイは複数のチームに、時差の関係から午前3時にコンテンツを作らせた。そんな仕事のあとで、一体誰が早く出社するだろうか?

Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)
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