アドテク分野で拡大する「セルフサービスモデル」

メディアバイヤーがさらなる透明性を求めるなか、アドテクノロジーは、メディア支出のセルフサービスモデルへと向かっているようだ。

セルフサービスでは、メディアバイヤーは独自の入札ツールを使い、独自のデータを社内で管理できる。最近のアドテク買収は、少なくとも企業統合の視点で見れば、セルフサービスが業界に広がっていることを示している。

プライベートエクイティ企業ベクターキャピタル(Vector Capital)の傘下にあるアドテク企業、サイズミック(Sizmek)は先日、デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)の公開企業であるロケットフューエル(Rocket Fuel)を約1億2600万ドル(約138億円)で買収することで合意したと発表した。サイズミックの取締役会長、マーク・グレーザー氏は、この買収の大きな理由として、セルフサービスを提供する会社の買収は、「サイズミックの大きな戦略に一致している」と語った。

また、タイム(Time Inc.)傘下のビアント(Viant)は2017年1月、DSPのアデルフィック(Adelphic)を買収したが、その理由についてビアントのCMO、ジョン・シュルツ氏は、「ブランドとエージェンシーの双方で、セルフサービスによるメディア業務への関心が高まっている」と語った。

ただしシュルツ氏は、「マネージドサービスへの関心はまだ残っている。ブランドもエージェンシーも、メディア業務に関して包括的な柔軟性を必要としているからだ」とも指摘する。「セルフサービスは、それだけがあれば万全というものではない。本当に大事なのはデータだ。セルフサービスを組み込むことで、当社のデータにアクセスしたいと考える、より多くのプログラマティック専門パートナーを対象にできるようになった」。

アドテクノロジーの未来

マネージドサービスに加えてセルフサービスの提供を開始したアドテク企業の数を示す確かな統計はない。しかし、リサーチ会社フォレスター(Forrester)でプログラマティックメディアのシニアアナリストを務めるリチャード・ジョイス氏は、セルフサービスはアドテクの未来だと確信している。調査、コントロール、検証、および透明性の観点だけでなく、知識構築の観点からもそうだというのだ。マーケターたちは未来に備えるため、デジタル広告の現状に関する知識の拡大に努めている、と同氏は考えている。

「ご存じのように、エージェンシーの大部分はセルフサービスに関心をもち続けている」とジョイス氏は述べる。「だから、セルフサービスを提供しなければ、アドテクプロバイダーには打撃があるだろう。即時的な影響はないとしてもだ」。

セルフサービスのプログラマティックプロバイダー、チューズル(Choozle)のCEO、アンドリュー・フィッシャー氏によると、セルフサービスを使えるブランドは、当面はまだ少数派だ。しかし、同社のクライアントは80%以上が中規模のエージェンシーで、こうしたエージェンシーは、以前は、プログラマティックキャンペーンはベンダーにアウトソースするのが普通だった。

インハウス需要のなかで

エージェンシーのアイクロッシング(iCrossing)でプログラマティック責任者を務めるアマンダ・ベトソルド氏は、広告主側の視点から、セルフサービスではチームがプラットフォームにアクセスしてクライアントに代わってメディアキャンペーンを直接管理できるのに対し、マネージドサービスだと、チームはDSPパートナーと一緒に仕事にあたり、操作はDSPパートナーが行うことになると指摘した。

「インハウス需要が高まるなか、当社が密接に提携している多くのアドテク企業は、フル機能のセルフサービスプラットフォームを提供するか、あるいは、カスタマイズされたプランニングやアナリティクスツールへのセルフサービスアクセスを提供して共同作業のやり方を向上させるか、いずれかで対応している」と、ベトソルド氏は述べる。

しかし、ベトソルド氏によると、マネージドサービスのみを提供しているアドテク企業もまだ存在する。その理由は、現在利用しているテクノロジーが複雑だったり、テクノロジーをクライアントが対面するプラットフォームに迅速に作り変える能力がなかったりなどさまざまだ。ブランドやエージェンシーと透明な形で取引できるビジネスモデルを構築するための、データとテクノロジーの評価に苦戦しているところもあるという。

エージェンシーの立ち位置

アドテク企業の幹部たちによると、セルフサービスをビジネスにするためには、アドテク企業はサブスクリプションベースのモデルか、SaaS(サービス型ソフトウェア)を採用できるのが理想だ。しかし現時点では、SaaSをエージェンシーが購入するのは難しい。チューズルのCEO、フィッシャー氏によると、エージェンシーがあるプラットフォームで10万ドルのメディアキャンペーンを実施する場合でも、実施の際にメディア支出の20%にあたる2万ドル(約210万円)を払うほうが、SaaSのサブスクリプションにイニシャルコストとして2万ドルを払うよりもエージェンシーにはやりやすいのだ。「金額は同じだが、エージェンシーの請求構造やビジネス構造が、購入の障壁になっている」とフィッシャー氏は語った。

サイズミックのグレーザー氏は、アドテクのSaaSビジネスモデルについては、ビジネスが異なるのだから、従来のSaaSのアプローチとは異なる仕組みが必要だと考えている。たとえば、広告業界ではない、法律サービスや金融サービスのセルフサービスモデルだと、ビジネスの100%がブラットフォームを通じて行われるのに対し、ベンダーがDSPをエージェンシーに販売する場合は、そのエージェンシーのプログラマティックキャンペーンをすべて獲得するとはまずならない。

「本当の課題は、十分に透明性のあるセルフサービスのSaaSビジネスモデルを、メディアのために構築できるかどうかだ。メディアでテクノロジープロバイダーに分配されるのは、システムに入ってくるメディアの量ではなく、テクノロジープロバイダーが貢献して生み出した価値なのだ」とグレーザー氏は語った。

Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)