R/GA独占インタビュー:「日本市場は複雑だが、ベストなタイミングで参入できた」

大手コンサルタント企業がクリエイティブエージェンシーの業務能力を有するようになっている一方で、エージェンシー側も、実行力を売りにしてクライアントのビジネスを包括的に支援する業務を展開している。

その代表的な企業が5月末に東京オフィスをローンチしたR/GAだ。

DIGIDAY[日本版]は7月上旬、六本木のハイアットにてR/GAの創立者、ボブ・グリーンバーグ氏にインタビューを行った。それに先んじて、今年のカンヌで同社は新しいタグライン「Connected by Design」を発表している。このタグラインは、R/GAが有する人材やスキルでイノベーティブなソリューション提案を行い、世界にある20のオフィスを繋げたコラボレーションの実現と、デザインへのコミットを表しているという。ディスラプティブなアプローチで、パートナー企業にもクライアントにもWin-Winな、ビジネスのエコシステムの構築を目指している。

今回のインタビューでは、同社が日本市場へ参入する目的と、R/GAが手がける新しいビジネスのエコシステムについて聞いた。

グローバルエージェンシーにとって複雑かつ特殊な日本市場

グリーンバーグ氏は今回の訪日を、日本でビジネスを進めていくうえでベストなタイミングだったと振り返る。世界の市場にオフィスを設立する際には、その地域との関係性をもっとも重視しているという。

「世界に19社あるR/GAのオフィスのなかでも、日本はオープンするにはとても複雑な市場で難しい場所だと感じた。私たちが成功するために、テクノロジーがコミュニケーションに対してディスラプション(破壊)を起こしているタイミングをずっと見計らっていた。今回、このタイミングならいけると思って日本に来ている。半年前だったら違っただろう」。

だが、日本の広告業界には習慣や暗黙のルールなど、トラディショナルな面も多く、ディスラプティブ(破壊的)なアイデアを受け入れにくい傾向がある。そのような状況について、グリーンバーグ氏は「日本支社のローンチのために採用したスタッフの力で、R/GAの既存のビジネスモデルを日本のビジネスモデルに合う形に変えていくことは今後やっていく必要はあると思う」と語った。

グリーンバーグ氏とR/GAのディレクター陣は、東京のクライアントとの打ち合わせでは、とても良い反応を得たという。彼らがこれからビジネスをしていくほとんどのクライアントは、日本に本社のある日本企業だ。それと同時に、日本市場でビジネスを展開したい日本以外の企業も彼らのクライアントになる。

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「日本から学べることがたくさんあるだろう。成功するための課題を考えるとめまぐるしいと思うが、我々が今後直面する課題はほかの市場とは大きく違うと思う。我々はナイキと16年一緒に仕事をしているが、常にナイキのニーズに答えるためにR/GAは変化することを求められた。新しいことを求められるたびに、人材だったり能力、専門知識だったりと新しいことを開拓できるので、非常に私たちにとってもいい経験だった。これから日本で学ぶことについて、私たちの全ネットワークに影響を与えることが出来ると思う」。

協力的な姿勢も日本のマーケットでは示していく

1977年にグリーンバーグ氏が創設したとき、R/GAはモーショングラフィックスを専門にしたプロダクションだった。それ以降、本格的なインタラクティブエージェンシーとして発展。その後、統合型デジタルエージェンシーへと進化した。

日本市場において、同社はいわゆる競合他社と戦うのではなく、協力的な関係も結べることを期待しているという。日本のほかに、上海、シンガポール、シドニーとアジア・オセアニアにも複数オフィスをもっているR/GAは、それぞれの支社の連携を大切にしている。世界にいる人材をいつでも使えるような体制を整えているのだ。

これまでに大きく変化をしてサービスの幅を広げてきたR/GAだが、「有機的な成長を大切にしているため、買収によって事業を大きくすることはしてこなかった」とグリーンバーグ氏はいう。従業員はすべて自分たちで集め、組織を作り上げてきたことを自負しているのだそうだ。

今回、日本支社の代表としてチームを率いる筈井昌美氏は、エージェンシーのバックグラウンドがなく、テクノロジーやイノベーションに携わってきた経歴だが、R/GAに加わることになった背景について、「R/GAはイノベーションやディスラプションをデザインで実現していく。なぜ私が採用されたのかは、同社のマネジメントトレーニングを経験することで肌感で実感していった。日本企業は高い技術があるが、長年自分たちのビジネスモデルにしがみついて変えられないというのがある。そこを、我々の戦略、テクノロジー、クリエイティブのあわせ技でサポートしていきたい」と述べる。

ベンチャー部門は今年40社のローンチを支援

人材を非常に重視しているR/GAにおいて、社外のリソースと社内のスキルをかけ合わせたビジネスモデルの構築は、同社が主要な事業形態とする6つの領域のなかの、ベンチャー部門で発揮されている。

ベンチャー部門はスタートアップに対して、フィナンシャル面の支援、クリエイティブ面の支援、R/GAのクライアントによる戦略的な支援の3つの側面から全面的にサポートする。その場合、クライアント企業は自社の課題を解決するようなソリューション開発への投資の一環としてスタートアップ支援に関わるため、R/GA、クライアント、ベンチャーのどちらにとっても良い循環をもたらすサイクルを作り出している。現在までに73社のスタートアップを成功に導いている。

「スタートアップを成長させるために、大手の企業と結びつけて何か新しいことを生み出せないかと考えている。今年すでに40のスタートアップを新しくローンチさせ、支援した。予定では今年度中に全世界から100以上のスタートアップをローンチさせることになると思う」と同氏は語る。

事例としては、R/GAのクライアントでもあるSnapchatがパートナーとしてアクセラレーションプログラムを提供し、主にコンテンツマーケティング技術に対しての支援を行った。Snapchatの提供するプログラム枠10に対して、約1万5000社の応募があったという。また、同じくR/GAのクライアントのベライゾンは、ニューヨークにコワーキングスペースを設立し、そこではマーケティング、ブランディング、デザイン、またビジネスニーズに合わせて、いつでもベライゾンとR/GAのネットワークとリソースを頼ることができる。スタートアップは、ベライゾンの子会社であるOath(オース)、go90、VDMS、FioS(フィオス)、Verizon Wireless(ベライゾン・ワイヤレス)からの支援も受けられる。

R/GAのグローバル チーフ マーケティング オフィサー、ダニエル・ディエス氏は「私たちのアクセラレータープログラムでは、スポンサー企業であるベライゾンやスナップのような企業がもつ課題を解決してくれるスタートアップを紹介している。スタートアップにとっても良いことは、大企業にとっても良いこと」と語った。

実行力が武器のコンサルティング

こうして多くのスタートアップを支援し成功に導く実行力は、同社のコンサルティング業務でも活かされている。R/GAは現在60〜80人のコンサルタントを雇っているが、クリエイティブ専門の人材とコンサルティング専門の人材のバックグラウンドの違いによって生じるコミュニケーション問題についての懸念はない。

「コンサルタントの人材を雇うときは、自分たちが考えた戦略や洞察を実現させたいと強く思っている人材を雇うようにしている」とディエス氏。

「私たちは新しい業界に参入するとき、クリエイティブにアプローチできないのならばまったく興味がない。既存のアイデアを実行するのではなく、まったく新しい方法で私たちのクリエイティブなレンズを通して見ることで、何が貢献できるか、破壊できる何かがあるのではないか、と思ってクライアントに向き合っている」。

同社がコンサルティングを手がけるようになった背景についてグリーンバーグ氏は、「クライアントが求めているものは本当の意味でイノベーションだと思う。ナイキプラスやナイキのコンテンツを手掛けてきたが、新しいものを作るだけではなく、会社のビジネスモデル、タレント、それを維持できる産業へと、クライアントが真に変われることが求められているからだろう」とアイデアを実行し、推進していく能力が求められていることを理由に上げた。

設立当初からR/GAは、9年サイクルで事業の変化を行ってきたというが、近年は2年ごとに組織的な変化をもたらしているという。これも、クライアントが求めるニーズが多様化し、それに答えるための変化だと同氏は振り返る。そして、そのサイクルは今後さらに早くなるだろうとグリーンバーグ氏は語る。「『Connected by Design』をベースにして、常に進化できるようにならなければならない」。

Interviewers 矢野貴久子 中島未知代
Written by 中島未知代
Photo by 千葉顕弥