「デジタル化するか、さもなくば死か」〜コトラー氏が指摘する、マーケティングのあるべき姿

マーケティングの世界的権威、フィリップ・コトラー氏は10月13日、グランドプリンス新高輪(東京都港区)で開かれた「ワールド・マーケティング・サミット・ジャパン2015」で基調講演を行った。

近代マーケティングの一体系を築き上げた、コトラー氏。世界中の大学で教科書として使用されている『マーケティング・マネジメント』の著者としても知られている。

基調講演において氏は、リーマン・ショック以降、資本主義が困難を迎えている現代に、マーケティングをさまざまな人々のために役立てるべきと訴えた。

破壊的な変化が起きている

コトラー氏は1970〜90年代、日本は世界に多大な貢献をしたと評価。日本発の改善(カイゼン)、ジャストインタイム、トータルクオリティコントロールは、世界各国で用いられている経営手法だ。

いくつかのコトラー氏による日本評は、80年代にピークを迎えたが、近年は厳しいとするものが多い。現在は日本を含む世界で「デジタル化するか、さもなくば死ぬか」の時代とし、破壊的な変化が起きているとした。

コトラー氏は、「民主主義は最悪のシステムだが、それ以上のシステムはない」というウィンストン・チャーチル英首相の言葉を引用し、「資本主義は最悪のシステムだが、それ以上のシステムはない」と、言い換えた。「資本主義は、ほかの経済システムに比べ、生産性が高い。マーケティングが(不完全な)資本主義のエンジンになるべき」。

また、市場経済では供給に対し、需要は一定ではなくしばしば減退することがあると言及。しかし、それにより生じた需給のギャップを埋める役割が、マーケティングに期待されているという。消費者のニーズを発見し、呼び起こすことができるからだ。

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コトラー氏の「マーケティング」は、企業が社会的責任を果たすことから、資本主義の高質化にまで広がった。コトラー氏は若い時期にミルトン・フリードマンやポール・サミュエルソンら高名な経済学者から学んでいた。

資本主義の「分配」に警鐘

また、コトラー氏は2007〜08年の世界金融危機後の文脈に触れ、米国の最高経営責任者(CEO)が平均的な労働者の300倍の給与を享受することを問題視。高所得層から中間・低所得層への資本がこぼれ落ちる「トリクルダウン」は機能していない、と指摘する。

そのうえで、生産性上昇分を株主と労働者で分け合うことを要求。多くの人々は住宅、自動車、iPhoneなどの購入のため債務を追うことを余儀なくされており、彼らが負債なしでこれらを購入できるようにするべきという。

コトラー氏の近著『資本主義に希望はある(英題:コンフロンティング・キャピタリズム)』は、トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」の文脈に沿っている。具体案として、最低賃金の引き上げ、低所得層への税の軽減、教育と健康への投資、米国の富裕層が高率の所得税を逃れるために使うキャピタルゲイン(有価証券、土地などの資産の価格変動に伴って生じる売買差益)に関する税の抜け穴を塞ぐことなどを提言した。

「マーケティングを世界の人々の暮らしを良くするために使うべきだ」と、コトラー氏。自身の功績のひとつであるソーシャル・マーケティングを解決策の一つとして締めくくった。

Kotler-DSC_0510フィリップ・コトラー / Philip Kotler
1931年生まれ、84歳。米イリノイ州・ノースウェスタン大学院ケロッグ経営大学院特別教授。マーケティングの世界的権威。著書は『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』『コトラー ソーシャル・マーケティング 貧困に克つ7つの視点と10の戦略的取組み』など50冊を超える。

written by 吉田拓史
photo(eyecatch) by Thinkstock / Getty Images
photo(Philip Kotler) by Jack11 Poland