ペプシCMの炎上、機に乗じて攻勢に転じるエージェンシー:社内エージェンシーは是か非か?

ピンチはチャンスにつながる。エージェンシーにとって、先日の的外れなペプシ(Pepsi)のCMをめぐる騒動は、まさにその良い機会となった。人気モデルのケンダル・ジェンナーが登場するこのペプシのCMは、彼らの脅威となりつつあるブランドの社内スタジオにて制作されたものだったからだ。

ちなみに物議を醸したペプシの不運なCMは、職場を放棄してデモ行進に加わるモデルとしてケンダル・ジェンナーが登場する内容。公開直後から大きな反発を招き、ネット上の強い怒りと批判を受けて、ついには放送中止になってしまった。このCMは的外れだと言う声は多く、さらに酷い言葉を投げつける者も少なくない。

だが、エージェンシーはここに希望の光を見いだしている。このCMは、ペプシ社内のブランドコンテンツ部門、クリエイターズ・リーグ・スタジオ(Creators League Studio)によって制作されたものだったからだ。エージェンシーは間髪を入れず、LinkedIn(リンクトイン)投稿からPRサービスまでもを利用して、自分たちが携わってさえいれば、この事態は回避できたと宣言している。

社内エージェンシーの危険性

トロントを拠点に活躍するフリーランスのコピーライター、スザンヌ・ポープ氏はブログで次のように述べている。「ペプシのしくじりは、社内エージェンシーの危険を示している。そう、仕事ができる人はいる。だが、とんでもない失敗をしそうだと指摘できる人はいない」。

マリオット(Marriott)やロレアル(L’Oréal)からベライゾンまで、より身軽に、より素早い対応ができ、コスト効率が向上するという理由で、社内にコンテンツ制作スタジオを設けるブランドが増えている。その結果、危機にさらされているエージェンシーの多くが、この機会を利用して力を取り戻そうと、RedditやLinkedIn、その他のフォーラムで即座にこの話題に飛びついたわけだ。クリエイティブエージェンシーにとってこの出来事は、YouTubeにおけるブランドセーフティの「危機」と同じだ。

ヒュージ(Huge)でグローバル・エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターを務めるジェイソン・ムサンテ氏は、この失敗は現実との接点を失った結果だと語る。同氏によると、ブランドは社内で強いブランドカルチャーを培うことに誇りを持っており、そうした強いブランドカルチャーは団結力の強い労働力を生み出すのに貢献する。だが、その一方で、現実の「バブル状態」を引き起こす結果にもなりうるという。従業員が世間における自社ブランドの価値を過信するため、ブランドの重要性についての過大な見方が現実世界の人の目に触れると、まったく異質なもののように写ってしまうことがあるのだ。ペプシのCMで引き起こされたのは、まさにこういう事態だった。

「当然のことだが、社内クリエイティブは、自社が陥っている現実のバブル状態に気付いていないことが多い。彼らは、世の中におけるブランドの価値、ブランドの目的を、我々全員が支持できる何かに変換することが自分たちの仕事だということを忘れてしまう危険を抱えている」と、ムサンテ氏は指摘する。

エージェンシーの役割

ワンダーマン(Wunderman)の北米最高経営責任者(CEO)、セス・ソロモンズ氏も、この意見に同意。「エージェンシーの役割は、状況によっては、クライアントをクズ呼ばわりできるくらいの信頼を勝ち取ることだ。社内エージェンシーは往々にして、アイデアに惚れ込んでしまい、それに関連するリスクを見逃してしまうことがある」と、ソロモンズ氏。それに対し、エージェンシーは率直な意見を述べると、先述のコピーライター、ポープ氏は語った。

エージェンシーが的外れで下手な発想をした事例がないということではない。

だが、クライアントを喜ばせてビジネスを続けたいという自然な欲求は、自社の評判に対する深い懸念によって相殺されていると、エージェンシーは主張する。これとは対照的に、社内のクリエイティブ部門は通常、業界内で目立つことなく仕事をしている。

「信頼できるエージェンシーなら、ペプシのCMのような失態を冒さなかっただろう」と、ポープ氏は言う。「人前で恥をかくことを喜ぶ人はいないが、その結果がもたらすダメージは、社内のクリエイティブ部門で働く者にとってはそれほど深刻ではない」。

ペプシCMが犯した過ち

ペプシのCMは「船頭多くして船山に上る」例でもある。社内クリエイティブチームは、四方を囲む壁の外にある現実との接点を失ってしまうことが多いと、エージェンシーは指摘する。共同作業においては、常識よりも前例が重視されてしまうからだ。ペプシのCMに特に不快感を与える要素がいくつかある原因もここだと、ポープ氏は語る。

たとえば青いチェロがそうだ。ペプシの青を画面により多く登場させることを狙ったのは明白だ。デモの参加者が怒っているというより、妙に嬉しそうに見えることもおかしな点だ。

「20年前なら、クリエイティブディレクターには、クライアントを嘲笑の的にするような変更など認めず、アイデアをつぶす権限があったはずだ。だがいまでは、最終権限をもつクリエイティブディレクターがほとんどおらず、宝くじにでも当選したかのように見える人々が意味のない『抗議』のプラカードを掲げる映像が出来上がってしまった」と、ポープ氏は述べた。

マーケターのあるべき姿

テキサス州オースティンにあるエージェンシー、ザ・ブラック・シープ・エージェンシー(The Black Sheep Agency)の創設者でプレジデントを務めるエイミー・ウッドオール氏にとって、ペプシのしくじりは、社内スタジオ対エージェンシーという戦い以上の意味をもつ。今回のことはマーケティングと伝えたい意味とのバランスを取るうえで、非常に重要なニーズを知らせる警告だと、同氏は言う。

ウッドオール氏は次のように述べている。「洗練された有名人を起用したCMには、もはや効果がない――それでは中身がなく、上辺だけと感じられる。いま、こうした環境で足場を固めたいと思うブランドは、より大きなリスクをとってオーディエンスにマイクを渡し、古い放送の考え方からコミュニティキュレーター・モデルへとシフトしている」。

サーチ・アンド・サーチ・ニューヨーク(Saatchi & Saatchi New York)の最高クリエイティブ責任者を務めるハビエル・カンポピアノ氏も、この考えに同意。ブランドがエージェンシーと提携するか、社内で作業を進めるかにかかわらず、こうした失敗は起こりえると言う。肝心なのは、ブランドが「会話に参加したい」と望むなら、少なくとも、話題に関連性があるスマートな何かをもって、それを語らなければならないということだ。ペプシのCMはそれをせず、「何でもできるという感覚と押しつけがましい信念」を叫んだに過ぎない。

「『ミレニアム世代が気にかけているのはこれだ。抗議の行進とはこう見えるはずだ。これが冷えたペプシの力だ』と、このCMは言っているだけだ。大手ブランドだというだけで、民衆の抗議する権利のような重要な議論に対して意見することを正当化できない」と、カンポピアノ氏は述べた。

Tanya Dua(原文 / 訳:ガリレオ)