広告代理店の「人材危機」、悪化の一途をたどる理由:買うのではなく育てろ

この記事は、デジタルテクノロジーと教育に関する事業を行っている企業、スミス&ベータ(Smith & Beta)の創業者アリソン・ケント=スミス氏による寄稿コラムとなります。

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エージェンシーは、優れた人材を確保していることがすべてだ。社員の能力、スキル、行動、そして習慣がエージェンシーの力となる。そのような優れた人材がいないエージェンシーは、ただオシャレな家具が置いてあるオフィスにすぎない。

業界では、これまでも人材不足に関する問題について、しきりに議論されてきた。誰を雇うべきか、そして誰を失うのか(GoogleやFacebookといった、いま人気のプラットフォームに流れる傾向がある)という点だ。良い人材を確保するための議論は尽きない。

人材を「買う」ことのリスク

人材教育、すなわち、従業員の雇用、養成、成長、維持は本来もっと注目され、投資されるべき分野だ。しかし、「人材雇用体制」と「組織の人材受け入れ態勢」は乖離しているケースが多い。企業のリーダーたちは企業の力について語るが、実際の組織内の社員の能力については語らないのだ。デジタルとテクノロジー業界ではとりわけそうした傾向がある。

UX(まだ存在するとして)やコンテンツ戦略といった業務は、相変わらず縦割りだ。我々はまだ専門家に依存している。そしてモバイルの潜在能力を有効活用するための進捗度合いも、まだ缶蹴りの状態だ。

我々は人材を「育てる」のではなく「買う」ことを続けてきた。「MITスローン経営大学院マネージメントレビュー」に7月26日付けで掲載された記事では「デジタル業界での人材獲得とその育成が1番の懸念だと答えている回答者はわずか6%しかいないとしているが、実際、人材の流出はレーダーに現れていない大きな脅威のようなものだ」と、指摘されている。

優秀な人材を維持する力は、エージェンシーの成功を示す重要な指標だが、ほとんど注意が払われていない(年間の平均離職率は30%に上る)。スポーツでも統一感を維持し続けたチームの方が勝利する。先に挙げたMITスローンの記事は、企業のポジションが不足しているだけでなく、会社を離れていく人間もいることにも言及。現在の規模で競合と競える体力があると回答したのは、回答者全体の11%にすぎないという。つまり、人材の維持と育成に関する考え方は、発展の可能性が大いにあるのだ。

従業員に投資するべき

しかし、業界に精通した人材を維持する取り組みに関して、エージェンシーの多くは立ち遅れている。ブランドはこの問題に気がついており、独自にエージェンシー的な能力を社内に整備しはじめてきた。広告をキャリアとして考える新卒はめったにおらず、広告業界の中間管理職は、現在のスキルや能力をGoogleなどほかのテクノロジー企業で試すために去っていく。エージェンシーはビジネスと人材、両方のバランスを保った投資を拒み続けているのだ。

広告分野では闇雲な人材獲得が行われているが、それは役立っていないどころか失敗に終わっている。従業員が長く働きたいと思う組織。すなわち従業員に投資するべきということだ。

人材への投資の面では、海外や他業界のほうが我々広告業界よりも先をいっている。従業員の仕事への貢献度を維持し、さらに彼らの力を伸ばし、その能力に投資することで長期間、会社に貢献してもらうための、より革新的なプログラムが作られている。たとえばデンマークの労働者に対する生涯教育の機会への注力は、デジタル業界において研究すべきモデルだ。

エージェンシーがもし、教育事業に携わり、提供サービスとしてクライアントの教育を開始したら、業界の人材状況はどのように変わるだろうか。ひょっとすると、毎年業界では30%もの人材が転職しているといわれるが、そのような人たちがとどまることを考えるかもしれない。

Allison Kent-Smith (原文 / 訳:ガリレオ)