オランダがクリエイティブ人材の宝庫になる理由:英語と地理条件で才能のハブに

本稿は、世界各国のさまざまな地域の広告事情のニュアンスを、当地の状況に精通した人の目を通して伝える「グローバル・クリエイティブ・シリーズ」である。

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オランダに本社を置くグローバル大企業といえば、KLMオランダ航空、ユニリーバ、ハイネケンなどが挙げられる。この国では、広告のクリエイティブシーンも活況で、ワイデン・アンド・ケネディ(Wieden+Kennedy)、180、DDBなど、グローバルなエージェンシーが拠点を置いている。

オランダの広告業界は最先端テクノロジーで知られ、とりわけ90年代以降はグラフィックス、デザイン、動画の分野で有名だが、デジタル広告も成熟しており、もはやただの専門的分野だとは考えられていないという。そう語るのは、DDB&トライバル・ワールドワイド・アムステルダムで共同最高経営責任者(CEO)を務めるサンドラ・ソスキッヒ氏だ。

では、オランダの広告業界の特色について、詳しく見ていこう。

ハリウッド的な作り方

ソスキッヒ氏によると、他国と同様、オランダのマーケターも「AOR(指名代理店)」モデルから「プロジェクト」モデルへと移行しつつあり、クライアント自らが主体となって、広告に関する問題を解決するために、複数の代理店と接触するという。これに伴って、クライアントの認識と予算も変化し、戦略やコンセプトよりも、実行や制作が重視されるようになった。

「いわばハリウッドのプロデューサーのようなモデルだ。クライアントはエージェンシーを必ずしも戦略的パートナーとは見なしていない」と、ソスキッヒ氏は説明する。

対するエージェンシーは、いかにしてアイデアに対価を求め、付加価値を生み出すかを再考することで、こうした状況に対処している。そう語るのは、DDB&トライバル・ワールドワイド・アムステルダムのクリエイティブディレクター、ブラム・ホルツァプフェル氏だ。

同氏によれば、「これは、新しいシステムで、まだ確立したものではないため、不公平に思えるときもあるが、我々はこの流れに乗って、変化を先取りしようとしている」と、彼はいう。

拡大するデジタルの役割

デジタルはかつて付け足しにすぎなかったが、いまやオランダの広告業界の中核をなしている。クライアントはコミュニケーション手段としてだけでなく、ビジネス変革の原動力として、デジタルに軸足を移しているのだ。

ソスキッヒ氏は、「データや精密なマーケティング、プログラマティックに注目が集まっている。このことは、クライアントがマスマーケティングよりも1対1のマーケティングを望むようになってきたという大きな変化を示すものだ」と述べた。

このアプローチの代表例としては、2014年に始まったKLMオランダ航空の #HappyToHelp キャンペーンが挙げられる。これは、Twitterを利用して、旅行者のトラブル解決を手助けするというキャンペーンだ。

ローカル・ミーツ・グローバル

ダイナミックなオランダの広告業界においても、海外クライアントに特化したエージェンシーと国内市場に特化したエージェンシーは明確に区別される。

ワイデン・アンド・ケネディやDDB&トライバル・ワールドワイド・アムステルダムなどのエージェンシーが国際的な企業やキャンペーンを扱う一方、JWTアムステルダム、TBWA、オグルヴィ・アムステルダム、アルフレッドなどは、国内志向が強い。

ホルツァプフェル氏は、「共通項はユーモアだ。ひねりの効いたオランダ流のユーモアは国内ブランドに適し、より一般的で万国共通のユーモアは海外に受ける」と語った。

たとえば、オランダの保険会社セントラール・ベヘール(Centraal Beheer)の以下のCMは、テクノロジーを皮肉った巧妙なユーモアで、「スマートホーム」でさえも空き巣に入られる危険性があると言っている。

もうひとつの例を挙げよう。オランダのサービスプロバイダー、テルフォート(Telfort)のCMだ。金融危機で大損失を被った元億万長者が、携帯電話とインターネットの契約をテルフォートに変えたおかげでカムバックを果たすという筋書きになっている。

巨大なひとつの文化村

豊かな歴史と文化と創造性をもつアムステルダムは、広告業界だけでなく、ファッション、デザイン、テクノロジーといった、ほかのクリエイティブ産業も集まる世界的拠点だ。こうしたさまざまな業種に引かれて、世界中からさまざまな才能の持ち主が集まり、アムステルダムは創造性の源泉となっている。

オランダのクリエイティブたちは、世界的ブランドで働くチャンスに恵まれるうえ、ワークライフバランスも実現できる。優れた教育システムを通じて、多彩なスキルを身につけ、多国籍企業やさまざまな業種の活気あるスタートアップシーンに入っていける環境も、才能ある人々を惹きつける要因だ。

ホルツァプフェル氏は次のように述べている。「アムステルダムでは誰もが英語を話すので、誰にとっても居心地がいい。ここにはクリエイティブ産業のスペシャリストの供給源という、すばらしいエコシステムがある。いわば巨大なひとつの文化村だ」。

Tanya Dua (原文 / 訳:ガリレオ)
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