リーダーを「母親」と呼ぶ、クリエイティブエージェンシー:「Mother New York」のオフィス探訪

マザーニューヨーク(Mother New York)では、変わらないものなどひとつとしてない。

広告代理店の聖地として知られる、ニューヨークのマディソン街から遠く離れたマンハッタンの一角。3階建てのビルにひっそりと、独立系クリエイティブエージェンシーのマザーニューヨークは社屋を構えている。だが、なかで働く従業員たちは常に活性化されて、マディソン街に負けない勢いでクリエイティブな仕事を次々にこなしているのだ。

マザーは、ニューヨーク、ロンドン、ブエノスアイレスに拠点を持ち、3カ月ごとに従業員に席替えをさせている。マザーニューヨーク共同設立者のポール・マルムストロム氏によれば、座席表は「とても複雑なアルゴリズムに基づいて決めている」というが、実際には単純にランダムで決められているようだ。

この席替えには、より深く相手を知れば、より良い仕事がともにできる、という意図がある。つまり、ほとんど関わりがなかった者同士を3カ月間ともに座らせることで、親密度が増すことを狙っているわけだ。

マイペースなエージェンシー

マザーのヘッドクォーターは風変わりで、その社風は実に面白い。「ピーナッツ・ギャラリー」と呼ばれる画廊や、警備員の2倍もある大きさのクマのぬいぐるみなどが置いてあったりするのだ。

業務スペースは、大きなフロアで全社員が一緒に働く。それぞれのチームにはクリエイティブ、アカウントプランナー、ストラテジストなど各部署から寄り集まったスタッフたちがいて、そこに社員が「マザーズ」と呼ぶチームリーダーたちが存在する。

「私たちは成長しても、昔からの考え方や、やり方は変えていない」とマルムストロム氏は話す。「成長を怖がっているわけではないが、そこまで早く成長しようとも思っていない」。現在、マザーはニューヨークだけで150名の従業員を抱え、残りの2つの拠点も含めると350名が在席している。

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常に人が大移動していく社内の様子

マザーはエージェンシー業界のなかで、平等主義者として長く知られてきた。これまでも、コラボレーションの精神から長々と各個人の名前をクレジットには出してこなかった(たいていの場合、プロジェクトのクレジットには一言「Mother」とのみ表記される)。

社員のアートをオンライン販売

コラボレーションの精神は、マルムストロム氏の最新のプロジェクトである「マザーメイド(Mother Made)」にも反映されている。このプロジェクトは同社のオンラインショップで、従業員によって作られた風変わりなアートが販売されているというもの。400ドル(約5万円)もするブランケットもあれば、「赤ちゃんって最悪」などのフレーズが書かれたアイテムや、「secondbesturl.com(2番目に良いアドレス.com)」のURLがたったの10ドル(約1200円)で販売されているのだ。

このプロジェクトに参加するクリエイターに対して、マザーは少額ながら製作費を供出するが、利益のすべてはクリエイターに渡される。最近260ドル(約3万2000円)の「ニュージャージーはダサい」と描かれたキルトを購入したマルムストロム氏。この場は、本来は物作りに長けているが、職業柄、独創性を活かせない従業員がそれを育む場所になっているという。「これはエージェンシーのプロジェクトなんていうものではない。商品のパッケージ方法や販売方法を学ぶための練習の場だ」。

あくまでデザイン重視のプロジェクト

また、マザーのデジタルとデザインを中心とした斬新なイデオロギーは、彼らの過去のプロジェクトから垣間見ることができる。たとえば、2014年、家具インテリアを販売するCB2社からの依頼。旅行者への宿泊施設の貸出サイト「Airbnb」の提供するアパートの部屋に、「CB2の生配信カタログ」を作るというプロジェクトがあった。

このプロジェクトでは、アパート内のインテリアを、すべてPinterestの一般ユーザーの反応によってリアルタイムで選ばれたCB2のプロダクトで統一。テーマに合わせてアパートの一室が作り上げられる様子がCB2のサイト上で公開された。

以下にて、マザーの社内の様子を詳細に紹介していく。

社内をいかにクリエイティブに活用していくかは、役員たちが決めている。クリエイターたちはオープンスペースと呼ばれる場所で働き、彼らの周りには過去のプロジェクトや現在進行中のプロジェクトが取り囲んでいるという。

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マザーのオープンスペース

現在進行中の数々のプロジェクトのパネルが1階の壁全体に飾られている。

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壁を飾るプロジェクト

キッチンは1階の真ん中にあり、みんなの待ち合わせ場所となっている。マザーは一日中食事やスナックを提供。シェフもいれば、ベルギー産のビール、ステラ・アルトワ(実際の顧客)のビールタップも用意されている。

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チョコレートプリンがシェフの得意料理

オフィスにいる社員全員の母親の写真がこの壁に飾られ、名刺にもそれぞれの母親の写真が印刷されている。

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このエージェンシーは母親をとても大切にしている。

オフィスのいたるところに座り心地の良いソファが置かれている。

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リラックスできるスペースは十分

皆が席を常に移動しているため、従業員にはそれぞれロッカーが与えられる。

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まるで高校のような雰囲気

天気が良ければ、従業員はいつでも屋上に行くことができる。季節ごとにアーティストを呼び、壁を塗り替えている。

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屋上

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風変わりなアート

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ビジネスパートナーとのミーティング

Shareen Pathak(原文/訳:BIG ROMAN)
All photos by Hannah Yi