「刈り取り」広告だけでは必ず頭打ちになる:フルファネル最適化に必要なスキルとは?

本記事は、WPPグループ最大のデジタルエージェンシー、VMLの日本法人の代表と、株式会社FICCの代表取締役を兼務する、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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私たちは、ソーシャルメディアのアプリなどから、日常的に動画コンテンツを視聴するようになりました。すでにデジタル広告のおよそ1割が動画の形式になり、「モバイルビデオ」の時代に突入したとも言えるでしょう。従来デジタル広告の大半は、既存需要の刈り取りを目的に使われてきました。しかし、動画の普及により、ファネルの下部だけでなく、上部における需要喚起にも使われるようになったのです。現在は、データを用いてファネル全体を一気通貫するフルファネル・マーケティングが求められています。しかし、広告主も代理店も、ファネル全体におけるデジタル広告の経験がまだ浅く、十分なスキルを持ち合わせていないのです。

ネット広告代理店の多くは、長いあいだ「刈り取り」型の広告の運用を専門としてきました。クリックや、コンバージョンの単価を下げることにフォーカスし、顕在化された需要を競合と奪い合っているのです。デジタル広告による刈り取りの参入障壁は低く競合が増えれば、新しい需要が十分に喚起される前に、顧客はすべて刈り取られてしまいます。そして、ファネル全体を最適化できない広告主のビジネスの成長は、失速するのです。

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フルファネル・マーケティングでは、最終的なコンバージョンの獲得単価(CPA)を最適化するだけでは不十分です。連続的な広告接触の影響を分析し、ファネル全体を最適化する必要があるのです。そのために、いくつかのスキルを習得しなければなりません。

態度変容プロセスの設計

私たちは1回の広告接触で購買に至るわけではありません。カスタマージャーニーと呼ばれる段階的な体験によって、徐々に商品の購買に向けた態度変容を起こすのです。購買に至る態度変容には、ある程度共通する順番があり、それを引き起こすコミュニケーションにも、同様の順番があります。

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態度変容プロセスの設計をはじめて行う場合、段階の数は最小限に留めましょう。コミュニケーションの効果を評価するうえで、立ち戻る基準さえあれば、段階の細分化はあとからでも行えます。上記5段階のファネルは、オンラインで比較検討をするような商材の多くに当てはまるものです。すべてに当てはまる汎用的なテンプレートではありませんが、対象に適した段階を考えるベースとしては役に立つでしょう。

中期指標の設定

最終的なコンバージョンだけで効果測定を行えば、買い場にもっとも近い、またはもっとも適した広告に予算が寄せられてしまいます。ファネル全体の広告効果を最適化するためには、段階ごとの中期指標を設定し、ブランドリフトと呼ばれるアンケートなどを用いることが一般的です。しかし、一定量のアンケート結果を集めるためには、予算も時間もかかってしまいます。そのため、態度変容を示す行動をあらかじめ設定し、その実行率で段階ごとのパフォーマンスを計測します。特定コンテンツの視聴、広告への反応、サイト内の遷移など、態度変容が前提となる行動が何であるかを考えましょう。

さらに、広告主が中期指標の設定に困るのは数値目標の設定です。最終的なコンバージョンであれば、ROIから価値指標を算出することは難しくありません。しかし、中期指標の場合は、既存の購入率や、購入意向率などから、目標数値を算出する必要があり、事前調査が必要となる場合もあります。

KPI算出シート

クリエイティブのバリエーション

広告の効果をもっとも大きく左右する変数はクリエイティブであり、マーケターは目的に適したクリエイティブのテストを重ねる必要があります。バナーのA/Bテストなどで行うような、細かい視覚的な表現方法ではなく、メッセージや訴求軸自体のバリエーションがたくさん必要になります。ひとつのクリエイティブを考え出すのも大変だというのに、いくつものバリエーションを作るにはどうすれば良いのでしょうか?

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段階ごとに何を訴求すべきかを考えるためには、買い場のコミュニケーションからコミュニケーションを逆順で考える、P&Gの「StoreBack」というフレームワークが有効です。マーケティング・コミュニケーションは買い場でその効果を発揮すべきですが、選択肢の多い買い場におけるコミュニケーションの時間と空間は限られています。StoreBackは、買い場での効果を最大化させるため、メッセージの受容性を高めるコミュニケーションを先行して行うというものです。これを買い場ではなく、最終的な商品体験から考えたらどうでしょう? 最終的な商品体験から逆算し、その受容性を高めるコミュニケーションの仮説が段階ごとに出てくるはずです。この仮説一つひとつをバリエーションとし、検証することができます。

ファネル全体の最適化

ファネル段階ごとのクリエイティブ以外にも、広告配信のタイミング、フリーケンシー(視聴回数)、シーケンス(順番)なども広告の効果を大きく左右します。その最適解は、ターゲットごとにも異なります。これほどまでの変数を含むテストが、人の手によって行われている場合は、明らかに非効率的であり、テストの内容にも限界が生じます。

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現在では、デジタル広告の運用を自動化するツールが登場しています。いくつかのターゲットやクリエイティブの最適化を行うだけであれば、人の手によるプロセスで十分であったかもしれません。しかし、そこにファネルの段階や、時間軸などが加われば、広告のバリエーションは膨大になり、管理しきれなくなるのです。adgoのようなツールを活用すれば、段階ごとのパフォーマンスだけでなく、ファネル全体の最適化が可能になります。

多くのマーケターは、収益を伸ばす責任を負っており、新規顧客の獲得が欠かせません。そのためにはファネルの段階ごとの効率だけでなく、スケールも伸ばさなければなりません。いまや、ユーザー単位の行動データによって、ファネル上部の施策を、下部への直接的な影響から最適化することができ、データドリブンなフルファネルマーケティングを実現することができ、再現性の高い施策の実施や、プロセスの開発を可能にするのです。

私たちは、いまだモバイルビデオの時代におり、このような最適化の手法はスマートフォンやPCの世界に限られています。しかし、数年以内にこれらのテクノロジーがテレビCMにも活用できるようになったらどうなるでしょうか。アメリカではすでにケーブルテレビCMの3割ほどの広告枠で、データによるターゲティングが可能です。データによって、ファネル全体を最適化するスキルをもたなければ、今後はどのようなプラットフォームにおいても成果を出すことが難しくなるはずです。

Written by 荻野英希