効果測定の覇者「モート」、華麗なる転身の軌跡をたどる:オラクルの8.5億ドル買収に至るまで

2007年、ライトメディア(Right Media)が8億5000万ドルで米ヤフーに買収された直後、同社CEOのマイケル・ウォルラス氏、役員のノア・グッドハート氏とジョナ・グッドハート氏は、次に来るアドテクベンチャーは、広告クリエイターとブランドを結びつけるクラウドソースのマーケットプレイスだと考えた。しかし、広告業界に通じ、シリコンバレーの大口投資家や巨大メディアともコネのある彼らだったが、初期のプロダクトは失敗に終わった。

だが彼らは、潜在的な顧客と顔を合わせるなかで、アナリティクスの問題がたびたび持ち上がることに気づいた。そこで彼らは、沈みゆく船であるヤフーと命運をともにするのはやめることにした。ライトメディア買収後に立ち上げた新会社モート(Moat)では、方向転換して効果測定にフォーカスしたのだ。5年後の2017年、そのモートをオラクルが8億5000万ドル強で買収したのだから、彼らには先見の明があったといえる。

アドテクの方向性を見事に変えたあと、モートは、600以上の顧客を抱える効果測定の覇者となった。スムーズに方向転換を成し遂げられた理由としては、コネを駆使して業界大物とのミーティングを持てたこと、フィードバックに基づいて主軸を移せるオープンな姿勢を保てたこと、業界のトレンドをいち早く見抜いたこと、ニッチを発見したあとは新製品を継続的にリリースしたこと、それに運よく広告効果測定の需要が沈静化する前に身売りできたことがあげられる。モートの社員数は当初の10人から300人以上に増え、過去7年の間に7000万ドル近い資金調達を達成した。これには、従業員がまだわずか20人だった時に方向転換できたというタイミングも一役買っている。

優れた起業家の片鱗

「クリエイティブのクラウドソーシングというアイデアは失敗だった。だが、優れた起業家の例にもれず、彼らは新たなマーケットを見つけた」。アップネクサス(AppNexus)のCEOで、モートの守護天使たる投資家のひとり、ブライアン・オケリー氏は言う。「ベンチャーキャピタルはスタートアップに無条件に投資しがちなので、クリエイティブツールがすぐに頓挫したのはかえって幸運だった」。

現モートCEOのジョナ・グッドハート氏は、ライトメディアでアドエクスチェンジに携っていた当初、プログラマティック広告の大部分はダイレクトレスポンス広告であり、自動化プラットフォームでインベントリー(在庫)を購入する国内ブランドはごくわずかしかないことに気づいた。同氏は、ブランドがプログラマティック購入を敬遠するのは、オンラインクリエイティブのあるべき姿をブランドがまだ知らないためだと考えた。

そこで、モートは創業最初の年、ディスプレイ広告の検索エンジンをリリースし、個々の企業の広告を簡単に見つけられるようにした。この広告検索エンジンは、クラウドソースマーケットプレイスに紐づけされている。モートが承認した広告クリエイターがそこに広告を出品し、ブランドがそれを利用することができた。

1000回のミーティング

2011年から2012年にかけて、グッドハート氏は、パブリッシャー、エージェンシー、ブランド、アドテク企業との約1000回のミーティングをこなし、モートの製品に関心をもつ層を見極めた。モートと業界との強固なつながりを駆使して、同氏は潜在的顧客と直接顔を合わせる機会をたくさんつくった。モートの出資者には、ピーター・ティールのファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)、メディアマス(MediaMath))のCEO、ジョー・ザワツキー氏、それに、レラー・ヒッポー(Lerer Hippeau)などが名を連ねた。レラー・ヒッポーは、ハフィントンポスト共同創業者ケネス・レラー氏と、元ジフ・デービス(Ziff Davis)CEOのエリック・ヒッポー氏が業務執行役員を務めるVCだ。

「ブランドからのフィードバックにより、彼らは(マーケットプレイスを、)クリエイティブエージェンシーへの追加料金、実質コストとみなしているとわかった」と、グッドハート氏は述べる。「一方、クリエイティブエージェンシーは、自分たちの仕事だから(マーケットプレイスに)手を出さないでくれと思っていた」。

こうしたミーティングを通じ、モートの広告マーケットプレイスに需要がないことがわかったが、一方でグッドハート氏は、モートがまとめたアナリティクス(広告の上をマウスが移動した時間を記録することで、ユーザーの関心を測定するヒートマップなど)について、多くの質問が寄せられることに気づいた。

効果測定プロダクトの需要

モートの方向転換を後押ししたもうひとつの要因は、2011年にインタラクティブ広告協議会(IAB)、全米広告主協会(ANA)、全米広告代理店協会(4A’s)がローンチしたイニシアチブ「効果指標の明確化(Making Meaasurement Make Sense)」だ。これにより、デジタル広告の不適切な効果測定が明るみに出たことで、業界イベントでの議論が活発化し、効果測定プロダクトの需要が高まったのだ。

ビューアビリティ(可視性)」などのバズワードが登場するなか、ビジネスチャンスを嗅ぎつけたモートは、事業の中心を広告効果測定に移す。2012年4月、フォーブス(Forbes)がパブリッシャーとしてはじめて、モートの測定プロダクトの利用契約を結んだ。その約1年後にはケロッグ(Kellogg)が、モート初のブランド顧客となった。最初の数年間、モートのクライアントはパブリッシャーが90%近くを占めていた。現在では、サプライサイドとデマンドサイドの顧客がほぼ拮抗していると、グッドハート氏は言う。

モートのように、複数年にわたって好調を維持するアドテク企業には、概して、当初のビジネスモデルのサンクコスト(埋没費用)に縛られないという特徴がみられると、投資銀行プログレス・パートナーズ(Progress Partners)の創業者ニック・マクシェーン氏は言う。同行のVC部門は、メディアマス、ディスティレリー(Dstillery)、それにモートのライバルであるインテグラルアドサイエンス(Integral Ad Science)などに投資を行っている。

ニッチを制すること

事業転換の例として、インデックスエクスチェンジ(Index Exchange)が挙げられる。同社は現在、多くのパブリッシャーのお気に入りのヘッダー入札ベンダーとなっているが、そうなったのは同社がアドネットワークから生まれ変わり、透明性の高い固定価格を導入したあとの話だ。対照的に、高い手数料を維持するデマンドサイドプラットフォームは、買い手がセルフサービスモデルに移行するなかで淘汰されつつあるし、ルビコンプロジェクト(Rubicon Project)はヘッダー入札導入に出遅れた痛手を取り戻せていない、とプログレス・パートナーズのマクシェーン氏は指摘する。

アドテク業界での成功の秘訣はニッチを制することだ、とアップネクサスのオケリー氏は言う。モートは、広告効果測定という波をとらえて以降、時流に合ったプロダクトを次々にリリースすることで成長を遂げた。ブランドセーフティやオフラインセールストラッカーが業界の注目を集めると、モートはそれらの管理ツールを、同社のビューアビリティと詐欺対策の製品に追加した。

モートは見事にビジネスを進化させたが、10億ドル近い値がつくに至ったのは、同社のコントロールの及ばない要因による部分もある。マーケターがFacebookとGoogleから譲歩を引き出そう必死であるため、サードパーティによる効果測定への需要が高まっていることも、モートへの追い風となった。また、クラウド企業がアドテク企業を飲み込む時代の流れも、買収実現の背景にある。

『あがり』を迎えるために

「(成功には)的確なタイミングと、神の恩寵が必要だ」と、ソースポイントのCEO、ベン・バローカス氏は言う。同氏は2011年、Googleが4億ドルで買収したアドテク企業アドメルド(Admeld)のプレジデントだった。「ああいう『あがり』を迎えるためには、買い手が求めるものを、求めるタイミングで持っていなくてはならない」

Ross Benes (原文 / 訳:ガリレオ)
Photo via Moat