2019年5兆円の旅:中国のモバイル広告は新しい龍を生む

爆買いで注目を集める中国人観光客が、自国発のモバイル決済を利用することが注目を集めている。中国にはいわば、デスクトップをスキップした、モバイル・セントリックなエコシステム(生態系)が生まれた。中国経済には暗雲も漂うが、モバイル広告市場は爆発的な成長を見込んでいる。この独特な形をした中国のデジタル世界は広告業界のドラゴンを生み出すかもしれない。

1.オペラの買収が物語ること

中国企業のコンソーシアムは2016年2月、ノルウェイのオペラ(Opera)を12億ドル(約1300億円)で買収した。オペラは1995年創業でブラウザで知られたが、GoogleのChromeやAppleのSafariなどに遅れをとり、競争力を失った。近年はモバイルブラウザを基点にしたモバイル広告配信網に経営資源を注ぎ込んでいた。プラットフォーム「オペラモバイルアドエクスチェンジ(OMAX)」、アナリティクスツール「オペラモバイルオーディエンスネットワーク」などを提供していた。2015年第3四半期の資料は、モバイル動画広告の収益が前年比で5倍に増えたと説明している。同社の広告プラットフォームはトップ・グローバル広告主の90%が利用し、8億人にタッチする可能性があるとしていた。

買収したコンソーシアムはIT大手のチーフー360(奇虎360科技)、ゲーム大手・コンロン(北京崑崙万維科技有限公司)と投資ファンドによるものだ。奇虎360科技はアンチウイルスソフトウェア首位で、ウェブブラウザとモバイルアプリストアも提供する大手ネット企業。モバイルアプリストアは6億人を超えるユーザーがいるとされる。コンロンはモバイルゲーム開発・販売をコアとし時価総額50億ドル(約5500億円)。P2P融資プラットフォームも展開し、米国のデートSNSを買収したことでも知られる。

この取引では、奇虎と崑崙がオペラのモバイル広告配信網に興味をもったと言われる。中国の2社が自社プラットフォームにオペラのモバイル広告のテクノロジー(特にモバイル動画)を利用するのが自然だ。

2.超モバイルに特化した広告市場

この買収劇がどうして成り立つかは中国市場をみれば一目瞭然だ。ニールセンによると、中国のスマホ普及率は73%。都市部では90%超え。情報通信白書(平成26年版)によると、日本の53.5%、米69.6%(フィーチャーフォン併用を含む)を超えており、富裕国の水準に達している。

中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、中国のネットユーザー数は2015年6月現在で6億6800万人、モバイルからのネット利用者が占める比率は、2014年12月の85.8%から2015年6月に88.9%に上昇した。未成年者のネット使用率、9割超。4分の3以上が、自分専用のモバイルを所有している。13億人市場のデジタル・ネイティブは市場をさらにモバイル色に変えていくだろう(人民網日本語版1同2)。

この環境下でモバイル広告は力強い伸びを見せており、日本のネット広告全体の規模を超えているのだ。eマーケター(eMarketer)によると、モバイル広告費は2015年は158億2000万ドル(約1兆7500億円)。2016年は249億9000万ドル(約2兆7500億円)、2019年には520億ドル(約5兆7000億円)に達すると予測。モバイル広告費がデジタル広告費に占める割合は2015年の51%から2017年の79.8%まで伸び、全広告費の47.8%に達すると予測される。とてつもないモバイルに傾斜した市場だ。

そしてここに君臨するのが、中国の巨人であるアリババとバイドゥ(百度)だ。 eマーケターの予測では、2016年にはアリババの広告収益が73億ドル(約8000億円)、バイドゥが67億ドル(約7400億円)に達し、3位のテンセントの6~7倍の規模になる。

中国のユニークなインターネットのなかでは、Google、Facebook, Twitterなどはブロックされており、海外エージェンシーのデジタルノウハウが生きづらく、アリババ、バイドゥ、ウェイボー(微博)、ヨウク(优酷)などに精通した地場系デジタルエージェンシーにチャンスが浮上する。さらに、2019年に520億ドル達すると言われる市場規模と、世界最大のeコマースとモバイル決済もまた、新しい巨人を生み出す可能性が高い。

3.ポンプ企業が地場最大デジタルエージェンシー

中国でもっとも注目を集めるデジタルエージェンシーは、ポンプを製造する重工業企業から生まれた。中国重工大手のレオグループ(利欧集団)は2014年6億200万ドル(約682億円)でメディアエージェンシーのメディアV(MediaV)などのデジタルエージェンシーを買収。レオは広東省深セン拠点の上下水道、農場、発電所向けのポンプメーカーだが、深セン証券取引所上場により調達した豊富な資金をまったく畑違いのデジタル広告業界に注ぎ込んだ。買収劇によりデジタルエージェンシーネットワークである、レオ・デジタル・ネットワーク(利欧数字网络)が誕生した。

広告ホールディングス世界1位のWPP(英)のストーリーに重なる。WPPは1970年代、ワイヤー製買い物籠メーカーだったが、現CEOのマーティン・ソレル氏が買収に買収を重ね、巨大企業が誕生した。13億人の中国市場には、このストーリーが再現される可能性は大いにある。

レオはグローバルのホールディングス企業が深く食い込んでいる中国のマーケティング業界のなかで、飛ぶ鳥を落とす地場系になった。拠点を中国の経済の中心地、上海に構え、従業員700人。グループの「Amber Communications」はコカコーラを担当、ソーシャルに強い代理店Arkr Groupはペプシコ担当と大手消費財メーカーを顧客にもつ。メディア、クリエイティブ、eコマース、モバイル、スマートTVと多岐に渡る分野を一手に扱え、クリエイティブ、バイイングも包括するワンストップサービスの代理店を目指している。

レオは2016年1月、元DDBノースチャイナ最高クリエイティブ責任者のジミー・ラム氏を起用。クリエイティブ人材の育成のため、「+A」というインキュベーターを開設し、長期的な広告事業の推進を視野に入れている。(アドエイジキャンペーンブリーフアジア

Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock/GettyImage