転職の嵐:なぜエージェンシーの中間職は辞めたがるのか?

エージェンシーで4年以上を過ごしてきたが、デボラ・ハナムラ氏はもうたくさんだった。昇進の道筋がはっきりしないため、ハナムラ氏はエージェンシーを出て、経営コンサルタントのパラディーノ・アンド・カンパニー(Paladino and Company)でマーケティング担当ディレクターとして働くことにした。

新しい仕事もやることは似たようなものだったが、大きな違いがひとつある。担当はどちらもブランド認知の向上と、マーケティング戦略だが、ハナムラ氏は、「インハウスで働くと、与えられる影響がかなり大きく、そのため、勢いも個人の満足感も大きい」と語る。そしていまは、複数のクライアントとのうわべだけの人間関係はなくなり、ひとつのブランドに注力できている。

ハナムラ氏だけではない。エージェンシーの中間管理職、つまり3~5年の経験をもった従業員たちは、やりがいのある仕事と本当のリーダーシップ経験をさらに欲している。たくさんの中間管理職が、この先、成長に通じる確かな道はふたつしかなく、どちらを選ぶにせよ、エージェンシーに留まってははいられないことに行き詰まりを感じている。最善の選択をするなら、クライアント側に行くか、自分で会社を起こすかのふたつにひとつだ。

辞めそうな中間管理職の特徴

多くのエージェンシーで、中間管理職はまるで消防士のように働く。問題解決と生産性向上というふたつの役割を担っており、そのスキルはエージェンシーを辞めたあとの人生で役立つ。

マーケティングエージェンシーであるマーケットモックス(MARKETMOX)のオーナー、ローラ・ノル氏の場合、アドステーション(AdStation)というエージェンシーのマネージャーだったとき、メディア購入の判断や請負業者の採用を担当し、そのエージェンシーの指揮をだいたい「任されて」いた。また、総合スポーツメディア「ブリーチャー・レポート(Bleacher Report)」の広報担当マネージャーであるタイガー・デンジャー氏は、ふたつのPRエージェンシーで管理職を務めたが、そこではさまざまな管理業務に加えて、毎日5~9社のクライアント対応業務、請負業者の採用、部下の教育も行っていた。

グローバルメディアエージェンシーであるMECのマネージング・パートナーで、人材と文化の責任者を務めるクリステン・メッツガー氏によると、この2人は有能だが、それと同じくらい会社を辞めそうな人の特徴に合致しており、皮肉なことに、もっとも見つけるのが困難な人材だという。

いまだに人の出入りが激しい

中間管理職の人材を引き止めるため、MECでは健康維持プログラムのほか、管理職教育、キャリアパスのエクスペリエンスマッピング、マンツーマンの教育などいくつかのプロジェクトを実施している。しかし、これでも十分ではなく、中間管理職はいまだに人の出入りが激しい。

メッツガー氏は、「エージェンシーを辞める人の40~50%はこの業界にはとどまらない。とどまってくれる人は、昇進や昇給を欲しているのが普通だ。そのため、ほかのエージェンシーからシニア・アソシエイトを採用するときには、その人物が本当に昇進にふさわしいという確信が必要になる」と話している。

メッツガー氏は続けて、P&Gやコカコーラのような企業がエージェンシーを変更すると、それにより新規採用も促進されると語った。エージェンシーは大きなクライアントを失うと従業員を削減し、新規顧客を勝ち取ると人員を増やす。

肩書きに見合う権限がない

問題の一部は、とりわけ大きなエージェンシーでは、中間管理職にその肩書きにあった権限が与えられていないことにある。そのうえ、中間管理職は経営幹部と若手専門職員、上下からのプレッシャーにさらされるのだ。経営幹部は実際の決定権を握っており、若手職員は指導を期待しているのである。

デジタルエージェンシーのDDGで人材戦略のマネージングディレクターを務めるステファニー・レドルナー氏は「一部の大きなエージェンシーでは、中間管理職が何階層もある。バイスプレジデントやシニアバイスプレジデントのような大げさな肩書きをもった人たちがいる。しかし、そんな人たちがクライアント側で働くと、こちらの方が権限があると感じる」と、語っている。

2週間で済むものが2年かかる

たしかに、数名の中間管理職に話を聞くと、クライアント側に移ったり自分の会社を作ったりした際には、より評価されるようになり、意志決定における影響力が大きくなったように感じたと明かしてくれた。

パラディーノ・アンド・カンパニーのハナムラ氏は、エージェンシー側の生活の活気は好きだったが、エージェンシーでのマーケティングは、流砂を歩いて通り抜けるようなものだったことがわかったという。これに対し、インハウスのマーケティング部門を切り盛りするのは、スケートで滑るのに似ている。一般的に、エージェンシーのマーケターはクライアントの仕事に忙殺されるのに対し、インハウスのマーケターはゆったりと過ごすことができる。

ハナムラ氏は、「エージェンシーでは、すべての判断が社内の評価担当者やつまらない人たちや競合する視点といったものを突破する必要がある。私の(エージェンシーで働いていた)ころは、誰もがあらゆる提案にサインをしたがり、2週間で済むはずのものに、本当に2年かかることもあった」と話す。

サイロ化するエージェンシー

エージェンシーのレイザーフィッシュ(Razorfish)からマーケティングコンサルタントのケプラー・グループ(Kepler Group)に移ったカラン・パーンディヤ氏も、権限が大きくなったと感じている。同氏はケプラーで、クライアント・ソリューションを担当するアソシエイト・ディレクターを務め、部門の枠を超えた、業務分野がそれぞれ異なる3つのチームを先頭に立って指揮している。

「エージェンシーに勤めていると、あの業務やこの業務を担当する人としか見なされない。しかし私は、新しい課題を求め、業界でもっとも聡明な人たちと仕事をしている。お金はひとつの動機ではあるが、私の場合は、単にある額を稼ぐというよりも、日々のやりがいを求めているのだ」と、同氏は言う。

パーンディヤ氏はさらに、エージェンシーは各部署がサイロ化しており、そのためクライアントに対する影響力を高める力に欠けると語っている。

マーケットモックスのノル氏は違うルートをたどった。ノル氏にはデータ志向のマーケティングとクリエイティブのエージェンシーを所有するという長期的な目標があるので、マネージャーから事業主に転身した。「このような挑戦には、少しばかりのプライドと、大きな冒険心がつきもので、私のキャリアの次の段階に必要だったのは、まさにこのふたつだった」と、ノル氏は語っている。

もっとお金を、もっと権限を

多くの中間レベルの専門家たちが窮地に追い込まれているのだ。彼らは、一方ではエージェンシー側のライフスタイル、活気、そしてコミュニティが豊富な環境を気に入っている。しかし他方では、長い労働時間、少ないゆとり、クライアントとの複雑な関係、サービス販売にはつきものの、ひっきりなしの綱渡りなどがあり、エージェンシーで価値のある人生を送るのは難しいと理解しているという。

DDGのレドルナー氏は、エージェンシーは中間管理職に権限を与えて、このジグソーパズルを解くべきだと考えている。ビジネスの真の意志決定により関わるようになり、何が起きているのかについて情報が与えられれば、中間管理職は仕事を任されているという思いが強くなるだろうと同氏は言う。

そして権限の付与は多くの場合、昇給を意味する。ベースツーデジタル(Base2Digital)でソーシャルメディアコミュニティのマネージャーとして働いた経験を持ち、現在はマーケティングコンサルタントのデール・フェレイラ氏は、報酬がひとつのわかりやすい解決策だと考えている。

同氏は、「エージェンシーはもはや良い暮らしを餌にして従業員を訓練することができない。この業界は経済的に追い詰められており、また忠誠心は未発達だ。素晴らしい才能を確保したいのならば、お金を出すことだ」と語った。

プロとして成長するために

パラディーノ・アンド・カンパニーのハナムラ氏は、多くのエージェンシーで資金繰りが継続的な課題になっていることに同意した。また、家庭をもちはじめた人たちは、より大きな会社が提供する安定を求めることが多い。しかしそれだけではなく、中間管理職は、仕事がきついという以外の理由で会社を辞める傾向がある。彼らはより大きな影響力を手にすることができるところを探しているのだ。

「人は、権限を与えられたと感じるときはもちろん、会社のミッションに関わり、自分のキャリアパスを理解し、勝利の喜びと成功を経験するときもプロとして成長する」と、ハナムラ氏は語った。

Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)
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