アドブロック「歓迎」論 〜その存在は、デジタルマーケティングを自滅から救う

この記事は、メディアプランニングおよびメディアバイイングの代理店「Mediassociates」で戦略プランニング担当バイスプレジデントを務めるベン・クンツ氏による寄稿です。

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広告業界が、潜在意識下にある自己嫌悪からパニックに陥るのは珍しいことではない。昨年、Facebookがブランドによる宣伝投稿のオーガニックリーチを削減したため、広告業界は頭を抱えた。ソーシャルメディアは、マーケティング・プラットフォームとして機能しうるのだろうか? 彼らのそうした疑いが長年の課題であることは間違いない。

そして目下の問題は、バナー広告が画面上に表示されるのを妨げる「アドブロック」ソフトの利用状況だ。デジタルマーケターらは、すでに「ビューアビリティ(Viewability:表示された広告が実際に目視可能であった回数または割合)」や「アドフラウド(広告詐欺)」「広告レスポンスの低さ」に悩まされているが、さらに、アドブロックによってオーディエンスをすべて失うのではないかという、ぞっとするような思いに縮み上がっている。

だが、私はあえて言おう。大歓迎だと。

アドブロックは、この数年間で広告業界に訪れた最良の出来事かもしれない。アドブロックによって、残されたコミュニケーションの世界はよりよい物となるはずだ。マーケターはユーザーの関心により焦点を当てるようになり、パブリッシャーにとっては邪魔なだけの大量の広告を減らそうという意識が生じる。

世界のオンライン人口3分の1も視野に

だが、こうしたプラス面を評価する前に、まずはアドブロックがどの程度まで普及するかを考えてみよう。

今回の「危機」は、アドビとページフェアがまとめた報告書から始まった。それによると、アドブロックの利用はたしかに急増している。現在、デジタル広告をブロックする人は2億人に上っており、これはオンライン人口28億人のうち約7%に相当する。つい4年前にはわずか3000万人だったものが、ここまで増えたのだ。また、とりわけ利用が盛んな地域もある。米国では7人に1人がオンライン広告をブロックを行っており、もっとも利用が盛んなオレゴン州では6人に1人だ。ギリシャでは38%がアドブロックソフトを使用している。

将来的には、世界のオンライン人口の3分の1がデジタル広告をブロックする日も遠くないだろう。人々を駆り立てているのは、主に、マーケターが自分たちの個人データをどう利用するのかという不安だ。

そして、ある巨大IT企業が舞台裏で人々を煽りたてている。Appleだ。同社は先日の開発者カンファレンスで、モバイルOSの最新版「iOS9」ではウェブブラウザ「Safari」にアドブロック機能を実装すると発表した(編集部注:この記事は米DIGIDAYで2015年9月9日に掲載された。「iOS9」は16日に配信され、アドブロックは実装されていた)。

これは非常に賢明な動きだ。この動き1つで、ユーザーエクスペリエンスが「向上」するだけでなく、マーケターはアプリ内広告の出稿を余儀なくされる。Appleは、「サービス部門」で年間200億ドルの売り上げを得ているのだ。Appleの動きはさらに、ライバルのGoogleに痛手を与えることにもなる。Googleは、ブラウザベースの広告を主な収入源としているからだ。Appleが「アドブロックはユーザーのためだ」と言うのは、コカ・コーラが「わが社の自動販売機でペプシを売らないのはあなたのためだ」と言うようなものだ。

ターゲティング改善のチャンスも

それでも、アドブロックはすばらしいアイデアだ。なぜならそれは、マーケターのオーディエンスから無駄な部分をそぎ落としてくれるからだ。

デジタル広告には、常に3つの大きな無駄がつきまとっていた。見たいとは望んでいないユーザーに届いてしまう広告、広告料を支払ったのに閲覧可能な画面の枠内に広告が表示されない「非ビューアブル広告」、そして、人間を装った「ボット」が偽の広告インプレッションやクリック、さらにはコンバージョンさえも生み出す「広告詐欺」だ。賢明なマーケターは、ビューアビリティの過大評価に対抗するツール(閲覧された広告の割合を計測するMoat Analyticsなど)や広告詐欺に対抗するツール(広告を見たのが本物の人間であることを確認するデータフィルターなど)を使っている。だが、本物の人間が広告の表示を鬱陶しく思うかどうかを予測するツールについては、これまで誰も開発してこなかった。

いまやそれが可能になった。実際のところアドブロックは、広告をひどく嫌う人たちに自ら選択させることで、無駄な広告を廃することができるツールだ。言うまでもないが、デジタル広告に100万ドルを費やしているマーケターにとって、広告嫌いの人たちのために30万ドルを浪費せずにすむのは喜ばしいことだ。「Adfender」や「Ad Block Plus」、「Privoxy」といったツールがやっていることと言ったら、民主党のバーニー・サンダース米上院議員に向かって、「今度の寄付金集めの昼食会に、共和党寄りで知られるフォックスニュースのスタッフは呼ばない方がいい」とアドバイスしているのと大差ない。

アドブロックは、マーケターに対しては、ユーザーの関心により特化するように圧力をかけ、そしてパブリッシャーに対しては、WebページをCPM(表示回数1000回あたりの単価)目当てのいまいましいスライドショー広告だらけにしないように圧力をかける。たしかに、パブリッシャーが広告売上の減少を恐れて、宣伝メッセージを記事の中に潜り込ませる、紛らわしい「ネイティブ広告」に向かうリスクはある。そして、もしパブリッシャーが自らの価値を大きく貶めるようなら、オーディエンスに見捨てられるだろう。だが、その話はまた別のコラムに回そう。

生活者が主導する時代

実のところ、私たちは今、「インタラクティビティの時代」の到来を目の当たりにしている。無数のデバイスで新たなパワーを得た生活者が、あらゆる侵害に反旗を翻している時代だ。テレビ視聴者はケーブルを切断してNetflixやHuluを視聴し、地上波ラジオのリスナーは、耳障りなAMやFMを放り出してPandoraやSpotifyを聴き、紙媒体の読者は、もっと自分の関心にマッチするソーシャルメディアに乗り換えている。

広告は、これまで常に「悪魔との取り引き」だった。つまり生活者は、自らの関心を差し出して、スポンサー付きのコンテンツを手にしてきた。しかし今、コンテンツにアクセスするコストは下落しつつあり、生活者の関心や注目がもつ価値は上昇しつつある。どこかで妥協せざるを得ない状況だ。

そして、それはいいことだ。最終的に、残ったオーディエンスは、広告のメッセージをもっと受け入れてくれるだろう。マーケターが投資から得る利益は大きくなるはずだ。そして、間にいる代理店も、本当にクライアント側に立つのであれば、このトレンドをターゲティングの効率化と見なすはずだ。アドブロックソフトを使われるということは、本質的に見れば、「その見込み客は広告主にとってのターゲット層ではない」という、100%正確なデータフィードなのだから。

広告とは、いつの時代も、「何を得るか」を競うものであって、「何を無駄にするか」を競うわけではない。本当に関心を持っている人たちの心を掴むことに集中しようではないか。

Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)
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