博報堂のデジタル化、価値最大化の方法は「データ」:博報堂DYデジタル設立の裏側

昨年からコンサル企業、テックベンダーが業界で事業拡大していることに関して、日本のマーケティング業界でも議論が盛んになってきた。4月に「博報堂DYデジタル」が設立され、7月には「電通デジタル」が設立された。広告会社は市場の拡大と激しい競争のさなかにあるデジタルマーケティング領域にどのようなビジョンをもっているのか。

博報堂常務執行役員、博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員の三神正樹氏は他業界で起きたデジタル化による業態の激変が、マーケティング業界でも起きていると指摘。博報堂DYグループはクライアントの事業拡大に貢献するためにデジタル領域を含めた包括的なサービスを提供する、と語っている。

「博報堂DYグループは総合広告会社グループ。広告主企業のビジネスの成長に貢献する、マーケティング全体の統合的パートナーでありたいというのが、博報堂DYグループ全体の絶対の考え方だ。デジタルはあくまでその手段。得意先の業種では、すべてデジタルで完結している企業はマジョリティではない。デジタルの重要性は5、10年前に比べてより重要さが増しているが、それは手段であり目的ではない。しかし、トータルに事業をドライブしていくなかで、デジタルが大事なドライバーであることは確かだ」。

博報堂DYデジタルは博報堂DYメディアパートナーズの100%子会社。博報堂DYメディアパートナーズのiメディア局などの組織と、博報堂DYインターソリューションズが統合。従業員は約320人(4月1日時点)。「博報堂DYデジタルは博報堂DYグループがクライアントに価値を提供し、デジタル面で事業をドライブをするなかの、ひとつの大きな柱だ」。

グループのデジタル専業代理店である、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)は、連結子会社であるアイレップと経営統合することを5月に発表している。博報堂DYデジタルは統合発表前のDACとアイレップからも人材を招き入れたという。「総勢何百人が別々のオフィスに分かれていたのを、ワンフロアに入れた。ひとつの大きな空間を共有して、すごくいい雰囲気になっている」。トレーディングデスク機能も博報堂DYデジタル、DAC、アイレップで一体となって提供するという。

無限の可能性と効率性のトレードオフ

「博報堂DYデジタルは、メディアの売り買いをするだけではなく、デジタル×メディアだったり、メディア基点でデジタルにどう取り組むかという切り口でメディアを扱う」と三神氏は語った。マーケティング業界の「デジタル」という概念は多様化し、サービスの幅は驚異的な速度で広がり、「メディア」の定義はかつてないほど拡張している。代理店や広告主が買い付け(バイイング)する対象としてのみ定義することが難しい。「最後の出口だけを捉えて、デジタルというのではない。事業戦略、プロダクトをつくり、市場をさだめて、生活者とむすびついて、それを改良していくという全体のマーケティングプロセスのなかで、あらゆる場面でさまざまなデジタルの役割がある」。ここにはオムニチャネル、O2O(オンライン・ツー・オフライン)施策も含まれる。

三神氏は黎明期からインターネットに携ったという。史上初のインターネットバナー広告である、wired.com(当時の名前はhotwired.com、雑誌「WIRED」のウェブサイト)に掲載された米通信会社AT&T の「You will」が登場した1994年ごろだ。

「デジタルに関しては新しいフォームがテクノロジーの進化と同時に無限にどんどん出る。広告会社としては悩ましいに尽きる。以前は定められたフォーマットで生活者、オーディエンスにリーチできた。非常にわかりやすい。しかし、フォーマット、フォームが多様になると、回路の作り方に無限の可能性がある。無限であることにはいい面もあるが、広告主のマーケティング活動としては必ずしも合理的、効率的とはいえない部分がある」。

「データを圧倒的に重視」「効率より効果」

三神氏はこの条件下で圧倒的にデータを重視すると強調した。「データは両刃の剣の面があり、効率のためだけに使おうとするアプローチもある。我々は、効果を最大化していく、メリットを最大化していくことに重きを置く。付加価値最大化の方法はデータだと思う。データをしっかり掴んでいれば、マーケティングの仕組みとしてより楽しいことを提供できる」。

「生活者データ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)では、広告主データと第三者データ、博報堂のデータを掛けあわせる。グループには1981年に設立した博報堂生活総合研究所、生活者データベースもある」。生活者DMPではグループがさまざまなステークホルダーと協力関係をつくり、マーケティングデータのベースを広げる試みを進めている。

「広告の表現を通じて、表現がメディアに載ったということを通じてブランドや商品に対する体験を提供していた。『わくわくしてほしい』『考えてほしい』とメディアや広告を通じて提供してきた。商品開発、商品デザインにも関与させていただくケースがある。プロダクト、サービスと全部の価値にタッチしている」。

「セールスプロモーション。イベント、店頭の体験も全部エクスペリエンス。それをどこまで体系的に、より豊かな体験をつくっていくための方法論にできるかどうかがポイント。正直言って、モバイルの画面のなかで起きることでも、まだまだ面白いことができる。ヨコ型なのかタテ型なのか、360度、没入型、狭い意味でのエクスペリエンスもまだまだ、黎明期だ」。

モバイルのなかだけで、体験をデザインするのが正しいのだろうか。「モバイルとPC、モバイルとテレビ、モバイルとトレインチャンネルのようにさまざまな『メディア』をシームレスにつないでブランド体験を提供するのが、広告会社グループとしてDNAとして刻まれている部分だ」と三神氏は説明する。「技術革新のスピードが早いので、ひとつのフォーマットのなかで、クリエイティブの技術を高めていくよりも速く、新しいフォーマットが出てきてしまう。フォーマット自身をクリエイティブしていく。我々が新しいフォーマットを作り出せるようになりたい」。

デジタルの動画で認知メディアに

「一般的に認知をとるのにマスメディアはいまだに圧倒的な力がある。大学生にテレビを観ているかと聞けば、昔よりは観てないようになっている。マスメディアがとどかないエアポケットを埋める。という役割になる」と三神氏は説明する。

モバイルの影響は若者だけでなく多くの世代に大きく響いている。博報堂メディア定点調査2015によると、デジタル接触時間は40代以下でテレビを上回る。さまざまな行動のそばにモバイルは寄り添い、意思決定に影響を与えている。

デジタルがアッパーファネルで果たす役割が拡大していく。「インターネット広告市場の成長の過程をみていただくと明白だが、これまではローワーファネル型のものが市場を成長させてきた。CPA(顧客獲得単価)、CPC(クリック単価)という考え方はローワーファネル重視を示している。データの説明力も、ローワーファネルに転がっている。インプットとアウトプットがはっきりしているからだ。デジタルはアッパーファネルに関しては未成熟だった」。

デジタル動画によりデジタルで認知獲得を目指す。人口動態上の偏りや人々の行動の変化は、テレビがリーチしない、しづらいグループを生んでいる。「動画がもっているインパクトは明らかにアッパーファネルでしょう。これまでデジタルに触っていなかった広告主も、検討するようになる。動画によりより深い掛け算を作っていけるだろう。テレビとデジタル動画はもっと近くなる」。

テレビとデジタルの共通指標のニーズがもちあがっている。「広告主、メディア、代理店の次の最大課題だと思う。すぐに答えが出るかはわかりません。ですがなんらかの共通の指標、参考値のようなものをつくっていかないといけない。共通指標に関しては、業界が協調するべき領域だ。初期段階ではトライ、テストは重要だが、最終的には必ずステークホルダーの利益を尊重したものにならないといけない」。

コンサル、ベンダーの大波「業界もデジタル化の激変」

昨秋からコンサル企業、テクノロジーベンダーがマーケティング業界に参入していることが日本でも知られるようになった。コンサル企業は企業内のオペレーションやビジネスプロセスに中小規模の制作会社・デジタルエージェンシーを買収し、事業領域を拡大している。グローバルで相次ぐM&Aは、アクセンチュアが4月にIMJ(アイ・エム・ジェイ)の株式過半を取得したことで、日本でも予断を許さない様相を呈している。

テックベンダーは企業のビジネスプロセスのクラウド化・自動化の末にマーケティングを捕捉。コンサルタントを抱え、マーケティング戦略立案の部分まで足を伸ばすケースも出ている。

博報堂DYグループが「博報堂DYデジタル」を設立したのが4月。電通は7月に「電通デジタル」を設立しようとしている。両社は広告会社がコンサル・ベンダーが参入・注力する分野に対して、組織再編により対抗しようとしているとみられる。

mikami1「テレビとデジタルの共通指標は広告主、メディア、代理店の次の最大課題だと思う」と語る三神氏(東京都港区、博報堂DYホールディングス)

「CIO(最高情報責任者)的領域とCMO(最高マーケティング責任者)的領域が近接してきている。IT全体が経営のなかに浸透してきたときに、まだ、十分に浸透しきっていないのが、マーケティングだということだ」。

「広告宣伝領域だけでなく、顧客管理(CRM)でも同じことが起きた。顧客管理を意識しない業態の企業でも顧客管理を運用し始める」。三神氏は企業のホームページを例に取る。「昔はホームページは企業紹介用のパンフレットだった。商品紹介パンフだったのが、広告と連動するブランディングの装置になった。それから、そこを通じてものを売るようになる(EC)。そうすると、ホームページはもはや企業のマーケティングシステムとつながっているものになる」。

「マーケティング・マネジメントの全体のパートナーとして、企業を成長させていくために、コンサル、ITと競合、協働する場面が出てきている」と三神氏は語った。「旅行業態は最近の間にデジタル化でまったく非なるものになった。いろいろな業種、業態でそういう変化が起きている。それがいまマーケティング業界にも起きている。ただ、どこまでいっても餅は餅屋だ、と思いますが」。

マーケティング業界のデジタル領域は世界的にM&Aが激しい。「こういうのはご縁があればという話。ご縁があったら、十分そういうことはある。プライベート(PE)、ベンチャーキャピタルとは業態が違う」。

Written by 吉田拓史
Photo via 博報堂DYデジタル