日本企業はAppleを見習え:最高デザイン責任者が必要な理由

欧米企業では経営層がデザインシンキングを採り入れるのはトレンドではなく、常態化。テック企業やコンサル、金融機関が相次いでデザインファームを買収している。経営陣をデザイン施設に招いてデザインシンキングを体験したり、ビジネス・デザイン・エンジニアリングの人材が議論してモバイルアップを作ったりすることが当たり前になりつつある。

スマートフォンに代表されるデジタルデバイスの普及により、顧客接点で生まれる価値が拡大しており、この部分にテック企業から伝統的な企業まで投資している。UI/UX特化のデザインスタートアップ、グッドパッチの代表取締役社長の土屋尚史氏はDIGIDAY[日本版]に対しこう主張した。

*デザインは装飾ではなく「誰に対してどういう価値を提供するのか」を突き詰めること

*日本企業はデザイン投資に対して欧米企業ほど熱心ではない。Appleを見習い、取締役会にCDO(最高デザイン責任者)を置くべき

*Airbnb、インスタグラムなどデザインを重視する企業が急成長した例は数多ある。スマートフォンの形を生み出したAppleももちろんそのひとつ

*IoT時代にはモバイル、音声、種々のIoTデバイスのインターフェイスが生まれるが、『人々の体験はどうあるべきか』『人々がどう役に立つか』を考えることは変わらない

デザインは「装飾」ではない

「装飾、最終成果物のアウトプットが、デザインの言葉の意味になっている。本来のデザインは『なんでそれを作るのか』『誰に対してどういう価値を提供するのか』『どういうマーケットのポジションをとるのか』を突き詰めることだ。ここまで重要な仕事にもかかわらず、支払われるお金は少ない」。

土屋氏は日本ではデザインの位置付けが高まっていない、と語った。「この5年でグローバルのデザインの位置付けが高まった。Google、Facebookがデザインファームを次々に買収した。マッキンゼー、デロイト、アクセンチュアとコンサルファームがデザイン会社を買収していった。IBMは1000人単位でデザイナーを内製化し、年間100億円ほどデザインに投資するとトップが決めた」。

DIGIDAYではIBM最高位デザイナーのダグ・パウエル氏(関連記事)、IBMのエージェンシーの日本トップ、工藤晶氏(関連記事)に多様な産業、経営層がデザインを取り入れている状況を聞いている。欧州のIT大手SAPでも顧客サービスにデザインを取り入れている(関連記事)

「サンフランシスコで働いていたときに、デザイン性の高いアプリケーションを作る企業が成長していくのを見ていた。特にデザイナーが共同創業者にいる企業はものすごい勢いで成長していく。Airbnb、インスタグラム、ピンタレストが事業拡大している」。

「海外ではばんばん起こっている。日本ではそうなっていない。日本社会は少子高齢化。単純労働で勝っていけない。単純労働は人工知能(AI)や新興国にとられていく。知識労働しかない。デザインは付加価値を生んでいく重要な方法だが、いまだに誤解されている。デザイナーの年収は平均400万円でサラリーマンより少ない。優秀な人が入ってこない。ここをぼくらは変えていかないといけない」。

少ない日本のデザイン投資

「日本のデザイン業市場規模は経済産業省のデータで出ている。日本企業は年間で3000億円を投資している。アメリカは日本の6倍の2兆円ある。日本より人口、GDPが小さいイギリスが4000億円投資しており、日本より1000億多い。日本は経済規模ほどデザインに投資しない。デザインに関わってきた私たちが体感でそう感じる」。

「投資額を変えていきたい。我々がやっているのはクライアントと一緒に仕事をして、企画の上流工程から入りこんで、クライアントとチームになりながら、プロジェクトを回していくこと。最初のアウトプットには絶対関わる。そこから生まれたプロダクトが世の中にインパクトを与えれば、デザインの価値が証明できる」。

そこで、CDOの設置こそ日本企業のデザインへのマインドセットを変えるのではないか、と土屋氏は考えている。「企業の意思決定をしているのは経営層、取締役会のなかにデザインのクリエイティブをもった人はいない。これから5年とか10年という期間を考えると、最高デザイン責任者が入ってくる必要がある」。

土屋氏も出席者に名を連ねる経済産業省の「第4次産業革命クリエイティブ研究会」によると、フォーチュン100(グローバル企業の総収入ランキングトップ100)のうち14%の企業がデザインエグゼクティブを設置。ユニコーン企業では21%に上る。

「ペプシコやフィリップス、起亜がCDOを設置している。フィンランドのヘルシンキは行政にCDOがいる。成功事例はもうある。Appleがあれだけ成功を収めた。90年代後半にサムスンのトップがデザインに力を入れていくという方針を出した。デザイン組織を作る部分から、米国の『デザインシンキング』で有名なIDEOに関わってもらったという」。

「その結果、サムスンはグローバル市場をとるようになり、日本メーカーはゴボウ抜きされた。日本メーカーのものは機能が多く、高く、使いづらくて、格好悪かったかもしれない。他方、韓国メーカーは機能は少なく、安く、使いやすくて格好いい。人々はどっちを買うか」。

「日経の『私の履歴書』で読んだが、カルロス・ゴーン氏が日産に来た時にまず最初にチーフデザイナー探しをはじめた。『外の人間であること』『日本人』という条件で、専務執行役員、チーフクリエイティブオフィサー(CCO)中村史郎さんを引き抜いた。当時の日産はデザインの決定権は技術開発部門がもっていたが、それをデザインはデザイナーに決定させる体制に変えた」。

「日本でもCTO(最高技術責任者)は当たり前だが、15年前には全然いなかった。15年のあいだに経営にテックが与える影響は大きくなってきたということだ。デザイン、クリエイティブという面でも同じことが起きるはずだ。CDOの人が『どんな会社にいたのか』と問われたとき『グッドパッチにいました』と答える会社にしたい」。

多様化するインターフェイスとデザイン

すでにアプリだけで完結するようなものがだんだん少なくなっている、と土屋氏は語っている。「最近は集中力計測アプリケーションの『JINS MEME OFFICE』で、モバイルアプリとウェアラウルデバイスをどう連携させるかを考え抜いた。

今年は年初に開催されたコンシューマーエレクトロニクスの祭典CESで音声認識プラットフォーム「Amazon Alexa」の快進撃が起きた。音声認識、ボイスコントロールの領域はインターフェイスに変化を与える可能性がある。

「去年、サンフランシスコに久々に行ったとき、Amazon Echoを家に4、5台置いている家もあるようで、家に置かれるデバイスとして普及している。Googleと競争しているが、Amazonはコマースを握っているから優位だ」。

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グッドパッチ代表取締役 土屋尚史氏(吉田拓史撮影)

「音声インターフェイスは人々の生活に入っている。米地銀大手キャピタルワンがデザイン・UX企業のAdaptive Path、Monsoonを2013年に買収。Amazon Alexaにより音声認識で入出金照会ができる」。

「人々の体験はどうあるべきか」のデザイン

IoT時代にはデザインする領域はおそらく拡張を続けるだろう。人々の接点が増えていき、接点ごとにアプリケーションなどの接触方法は異なるはずだ。

「(IoT)すぐに手を付けてまずは『失敗』しておきたい。インターフェイスとしてはモバイルもあるし、音声もあるし、種々のIoTデバイスが考えられる。結局は、人々の生活のなかでどう活用されるか、ということを基点に考え、デバイスごとに機能を散らし、接点で見え方を変えるようにしたい」。

「デザイナーの役割は『人々の体験はどうあるべきか』『人々がどう役に立つかを考える』のが役割。デザインシンキングでサービスやプロダクトを生み出すのがデザインの役割。経産省の調査によると、企業のニーズが大きいのは新商品、新サービスを生み出せるデザイナー。ユーザー体験、ビジネスモデル、エコシステムのデザインという『広義のデザイン』に一番ニーズがある」。

Written by 吉田拓史
Photo by GettyImage