エプシロン「知られざる巨大代理店」 〜米広告代理店、包括サービス化の流れ

日本のブランド企業の場合、広告活動は総合広告代理店へ包括的に依頼することが多い。その一方、米国ではずいぶん長い間、分業が一般的だった。その流れが、近年変わってきている。広告制作、メディア・プランニング、メディア・バイイングなどを包括する「新しいエージェンシー」が出現しているのだ。

現在、勢いを増しているのは、経営コンサルティング領域の強みとともにエージェンシー業に参入してきたデロイト、アクセンチュアなどのコンサル勢。それらとは出自が少し異なるエプシロン(Epsilon)は、データを活用したマーケティングを得意としてきた。だが、エージェンシーを買収し、業務領域の拡大を続け、いまでは大手クライアントをものにするほどの「知られざる巨大エージェンシー」となっている。

データを反映したクリエイティブ

禁煙ガムのニコレットは2015年7月、「人々が喫煙をやめた理由」にフォーカスしたキャンペーンを展開。社交ダンサーのシャーリー・バラス氏ら有名人を起用し、禁煙に至るまでの過程を、詳しく紹介する長い映像を複数作成した。

それを担当したエプシロン社の最高クリエイティブ責任者であるジョン・イムゾイート氏は、このキャンペーンを「データ主導型クリエイティブ」の一例として挙げる。これまでの禁煙キャンペーンは、たいがい「禁煙は健康に良い」という視点で制作されていたが、「人々がなぜタバコを辞めるのか?」という個人的・感情的な理由には、着目されていなかったという。

ニコレットのキャンペーンには、エプシロンが集めた「詳しい顧客データ」の情報が利用された。それは、電子メールとマーケティングに関する米国有数のデータソースだ。そして、実際のクリエイティブは、エプシロン内でイムゾイート氏が率いる400人のエージェンシー部門が制作した。

広告専門メディア「AdAge」によると、エプシロンはいまや売上で米国有数のエージェンシーとなっている。2014年の売上は14億ドルもあり、より有名なエージェンシーであるレオ・ブルネットやFCBを上回っているのだ。

エプシロンの親会社であるアライアンスデータシステムズ(ADS)のエド・ヘファーナンCEOは収支報告の席で、エプシロンの「ワンストップ・ショップ」アプローチについて、次のように説明した。「我々がもつテクノロジーのすべてと、クリエイティブのすべてを、ひとつのサービスとしてほしいと考えるCMO(最高マーケティング責任者)向けの巨大な市場が存在する、と確信している。1カ所に電話すれば、すべてが済むようなサービスだ」

変化をもたらした、新しいエプシロンのリーダー

エプシロンにおいて、この変化を主導しているのがイムゾイート氏だ。同氏は2013年にエプシロンへ参加。当時、自ら経営していたエージェンシー「ザ・ライアン・パートナーシップ」を、より優れたエージェンシー企業にするために、エプシロンへ4億5000万ドルで売却した。その後、エプシロンはエージェンシーのベテランたちを採用。シカゴの有名広告代理店レオ・ブルネットやグローバル広告代理店オムニコン・グループのDDBに在籍したデヴィッド・シー氏、同じく元DDBのコーリー・チセク氏などだ。

エプシロンが提供するサービスは現代的だ、とイムゾイート氏は語る。エプシロンの収集データを利用することで、顧客に関する洞察と、より良い戦略に基づいたクリエイティブを推進できるのだという。

「これまでのエージェンシーの仕事は、TVドラマ『マッドメン』(60年代の米国の広告黄金時代を描いている)の時代から変わっていない。しかしそれは、いまや終わりを迎えているモデルだ」と、イムゾイート氏は語る。

勢いを増す「新しいエージェンシー」

エプシロンは、現在この業界で影響力を強めている「新しいエージェンシー」の一員だ。新しいエージェンシーとは、クリエイティブとマーケティングを両方の機能を兼ね備えたサービスであり、具体的には、コンサルティング会社の一部門であるエージェンシー(デロイト・デジタル、アクセンチュア・インタラクティブ、PwCなど)や、データプロバイダーであるエクスペリアン(Experian)やアクシオム(Acxiom)などを指す。親会社と比べると規模が小さいため(エプシロンは、全体では8000人を超える)、親会社のコア事業の付け足しと見られることも多い(保守的な経営者の一部には、新しいエージェンシーを「ニセのエージェンシー」と呼ぶ者もいる)。

だが、こうしたエージェンシーと仕事をしたことがあるサーチコンサルタントによると、クライアントたちはコストカットを求めて、すべてを一度に提供できるスペシャリストに仕事を依頼したがるという。また、こうした変化の理由のひとつとして、「クリエイティブな仕事に取り入れるべきデータ」に関するクライアントの理解が進んでいるということもある。クライアントは、データに基づかない「直観的なアイデア」を重視しなくなってきているのだ。

同じくサーチコンサルタントで、アークアドバイザーのパートナーであるアン・ビロック氏は、「こうした会社の目的は、エージェンシーによる中抜きを排除することにある――とりわけデータ管理分野において」と説明する。とはいえクライアントたちは、こうした会社が現在どこまでサービスを拡大していて、どれくらい良質なクリエイティブを提供できるのかについて、いまだに検討中というところだ。

エプシロンは、同社の最新の成績として、この1年の提案成績は17戦14勝だったと主張している。いずれの提案も、エプシロンにおけるデータの専門知識をクリエイティブ資産と組み合わせて提供できることを中心に構成されたという。

「ほかのエージェンシーにはアクセスできないものを、われわれは所有している」とイムゾイート氏は語る。「だから、すばらしい提案ができるし、評価もされるのだ」

Shareen Pathak(原文/訳:ガリレオ)
Photo from Epsilon’s Facebook