WPPチャイナCEOが語る、中国ブランド台頭の理由:「彼らは何でも屋でなくていい」

優れたアイデアは西洋諸国から新興市場へと伝わるという考え方はもはや正しくない。少なくとも、世界的に有名な大企業が苦戦を強いられる一方で地元ブランドが急成長しつつある中国では異なる。

これは、世界最大手の広告代理店WPP傘下にある、WPPチャイナで最高経営責任者(CEO)を務めるベッシー・リー氏の意見だ。バイドゥ(百度)やファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)、シャオミ(小米科技)といったブランドが世界進出を果たすなか、中国でマーケティングが進化しはじめている。

リー氏は、9月21日(米時間)にニューヨークで開催された「フィナンシャル・タイムズ フューチャー・オブ・マーケティング・サミット(Financial Times Future of Marketing Summit)」で、「中国のブランドは、さまざまな多国籍企業からマーケティングのベテランを雇い入れはじめており、新しいマーケティングが生まれるところを我々は目の当たりにしている」と語った。また、多国籍企業にとって、中国の地元ブランドとの競争以外に、データへのアクセス制限や知的財産権の侵害も大きな問題となっているという。

リー氏は米DIGIDAYの取材に応じ、中国のブランドおよびメッセージアプリ「WeChat(微信)」について、さらに中国におけるデータアクセスや著作権保護について話してくれた。

地元ブランドが急成長した理由

10年ほど前に、北京や上海ではない二線級、三線級の都市で多くの中国ブランドが生まれた。いまではそうしたブランドが大きく成長して、多くの世界的ブランドが進出している大都市にまで、その勢力を拡大しつつあると、リー氏は言う。

そうした地元ブランドは、多国籍企業が提供していない製品分野を見出す能力に長けている。たとえば、世界的な化粧品ブランドの多くが、美容マスクから美容液、アイクリームまで、広範囲な製品ポートフォリオを擁しているのに対し、中国企業はひとつの分野だけを選び、その分野における技術革新を進める。

「彼らは何でも屋になりたいとは思っていない。あるひとつの分野の名人になりたいと思っているのだ」と、リー氏は語った。

さらに流通の問題もあると、リー氏は言葉を続けた。中国ブランドの多くは、アリババ(阿里巴巴)やJD(京東商城)、WeChatのようなeコマースプラットフォームを通じてオンラインで誕生したが、多国籍企業には実店舗を設けて、そこで顧客に対応するという伝統がある。

リー氏は次のように述べている。「大手ブランドは、オンラインでは何か違うことをしたいと考えるものだ。だが、昔からの付き合いがある販売代理店がやって来て、『オンラインでの取引は、私がいま店舗でやっていることより、割のいいものにはしないと確約してもらう必要がある』という」。

WeChatをうまく利用できないのは言葉の壁があるからではない

製品を販売するための流通プラットフォームとしてWeChatを利用する中国ブランドがどんどん増えているのに対し、多国籍企業のほとんどは、このメッセージアプリをコンテンツマーケティングのツールとしてだけ使っている。「大手ブランドは、自社のマーケティングガイドラインに従いたがる――彼らは、素早く変化することなど、ほとんどできない」と、リー氏。

そして、中国の新興企業の多くは、WeChatで人々を惹きつけるコンテンツ作りがとても上手い。たとえば、コンテンツをモバイルゲームに変えたり、消費者が製品をオフラインで引き替えられるようにしたりしている。これに対し、多国籍ブランドが提供するコンテンツは、リー氏によると、静的で変化に乏しく、いかにも商売目的に見える。

「彼らの広告コピーの書き方は、十分に心が通っているとは言いがたい」と、リー氏。「多くの多国籍企業やエージェンシーにはマーケティングを担当する中国人幹部がいるので、言葉が障害になっているわけではない。消費者のWeChatの使い方をきちんと理解できていないのだ。ここをしっかり学ぶ必要がある」。

サードパーティー企業の手助けがないと欲しいデータを入手できない

バイドゥやアリババやテンセント(Tencent)のようなテクノロジー大手は、ユーザーの行動について膨大な量のデータを擁しているが、ブランドがこれらのプラットフォームから直接そういったデータにアクセスすることは不可能だ。

「困るのは、探しているデータを手に入れてくれるサードパーティー企業をどこかで見つけなくてはならないことだ」と、リー氏は説明する。WPPチャイナは、地元のデータプロバイダー企業GeTui(个推)と提携して、この問題を解決している。

知的財産権に対する考え方の違い

多国籍企業の多く――特にグッチ(Gucci)やシャネル(Chanel)のような高級ファッションブランド――は、中国のコピー商品経済に苛立ちを感じている。驚いたことにリー氏は、中国でビジネスをするなら、各ブランドは知的財産権の侵害を大目に見るよう勧めている。企業が提訴をしてから数カ月もすれば、そのコピー商品は進化して、もとになったアイデアとは、似ても似つかないものになってしまうかもしれないからだ。

「もちろん、この問題は真剣に考える必要がある。しかし、理想を言えば、あまり大騒ぎしないでほしい。あなたがWhatsApp(ワッツアップ)だとしよう。WeChatがアイデアを真似したと文句を言うことはできる。だが、いま、WeChatはあなたよりずっと先を進んでいて、あなたのクレームは的はずれなものになっている。クレームを言って、誰が得をするのだろうか? WhatsAppに対する中国の消費者のイメージがよくなるだろうか? 打ち負かすことができないなら、一緒に進んでいくほうがいい」。

Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)
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