電通デジタル設立に見る、マーケティング業界の「超多様化」

電通は7月8日、都内のホテルで新会社・電通デジタルを広告主らに正式に発表した。電通デジタルの設立は、4月の博報堂DYデジタルの設立と合わせて、デジタルマーケティング業界のエコシステムの多様化が、日本でも米国と同様のレベルに近づいていることの強いシグナルだ。デジタルマーケティングという言葉について、プレイヤーたちがさまざまな定義を出すなかで、電通デジタルがどのようなビジョンを掲げるかに注目が集まる。

電通によると、新会社は従業員約700人、電通デジタルマーケティングセンター(DMC)にネクステッジ電通、電通イーマケティングワンを統合した。7月1日に営業を開始している。電通100%出資の子会社でCEOを大山俊哉氏が務め、デジタルマーケティングに関する包括的なサービス提供を目指している。記者団の取材に応じたCOO、丸岡吉人氏は「1日時点で電通などから電通デジタルに業務移管を行った。今後は新会社のカルチャーを練っているところだ」と説明した。

電通本体、電通アイソバー、サイバー・コミュニケーションズ(cci) などとの業務がオーバーラップする懸念があるが「密に連携を取りながらやっていく」「クライアントの意向に合わせて対応していく」という。電通デジタルはコンサルティング企業的な体系をとり、現状50人のチーフコンサルタントが一括して責任を負う。報酬体系は電通本体はコミッションだが、電通デジタルは「時間当たりいくら」というフィーを採用すると丸岡氏は説明している。

群雄割拠の業界での差別化要因については、丸岡氏はさまざまな分野をジョブローテーションした、マーケティング経験とデジタル経験を積んだ電通のハイブリッド人材と説明した。

消費者とクライアントをつなぐ

電通のクライアントには製造業が最も大きなパイを占めるが、製造業は現在「インダストリー4.0」などのデジタル化にある。「電通デジタルはデマンドと企業の接点をつくることをマーケティングと定義し、サプライ側のサプライチェーン最適化のようなビジネスに関しては、そういうサービスを提供する企業と協業する」と丸岡氏は語った。クライアントの意向に応じてさまざまな座組があり得ると、丸岡氏は話している。2日にはMarketo(マルケト)とLINEビジネスコネクトを連携するソリューションを提供すると発表している(リリース)。クライアントが利用するMAツール・分析ツールなどに柔軟に対応し、各ベンダーのサービスを組み合わせ、戦略立案、運用を助けるだろうか。

電通本体の石井直社長は「こういう会社をもっと早くはじめたかった。10年前にはじめればよかった。だが、電通は実践的なサービスを提供し、お客様のビジネスの成功を助けられる」と語った。「(近代マーケティング理論の父)フィリップ・コトラー氏はデジタル化するか、さもなくば死、と語っている。激しく変わっていくテクノロジー、メソッドについていく」。

日本でも昨秋からデジタル領域の「百家争鳴」状態に関しては、DIGIDAYの取材などでも知られるようになってきていた(PwC関連記事デロイトデジタル関連記事榮枝洋文氏関連記事)。もはや、広告主→代理店→メディアの構造で説明することは極めて難しい。企業がベンダーやスタートアップと直接協業することもよく起きているようだ。尖った例はフィンテック分野。金融機関がデザインカンパニー、UXコンサルティング企業と直接取引し、米投資銀行などは巨額の予算を活かし買収でスピードを稼ぐ。さまざまなプレイヤーがプロジェクトごとに協業・競合する環境は既にあり、今後より活発化する可能性が高い。日本でも今年4月には博報堂DYグループが博報堂DYデジタルを発足し、アクセンチュアがIMJを買収し、予断を許さない。

分類不可能?  デジタル領域の超多様化

デジタルマーケティング業界のエコシステムが極めて多様化している、ということだ。米国ではコンサル企業、テクノロジー企業が制作プロダクションやデジタルエージェンシーを買収してきた。扱いフィーベースで上位にIBMインタラクティブ・エクスペリエンス、アクセンチュア・インタラクティブ、デロイトデジタル、PwCデジタルなどがマジョリティを形成している。他業種組には本業自体がデジタル化や過当競争に脅かされている共通点がありそうだ。IBMはエンタープライズITを越えた多様化のフェイズとみられ、デロイト、PwCなどの本業である会計・監査の分野に関しても、外的環境が整えば、クラウド、オートメーションを広範に適用できるはずだ。

それからマーケティング・オートメーション(MA)と呼ばれる領域だ。MA企業は積極的なM&Aとマーケティング費用を投入して、急激に事業を拡大している。マイクロソフトがリンクトイン(LinkedIn)を262億ドル(約2兆6000億円)で買収したが、この交渉の最終段階までセールスフォースがいた(Record)。セールスフォースはキャッシュと株式交換で2兆円超えの買収費用を用立てられた。この資本主義のテコは驚きだ。

MAは多様なサービスを組入れ、包括的なサービスを開発する構造から、「全国統一」を果たした一握りのベンダーがウィナーテイクオール(勝者総取り)する観測がある。「マーケティング製品を売る企業自体が、莫大なマーケティング費を投じる」という興味深い事態が起きている。

米国ではコンサルが案件を引き受けて、業務部分をマーケティング・オートメーションを利用した運用にしたり、MA企業自体がコンサルタントを立て、広告部分を代理店に任せたりという座組も存在するようだ。似た例は日本にもある。

データを握る巨人はゲームを変えられる

また広告に関してもデジタル化の波は止まらない。富裕国ではテレビCMは依然として最大のパイをもつが、米国、英国では近くデジタル広告がアナログ広告をテイクオーバーする見通しだ。

この成長市場を握るのはGoogleとFacebookだ。米国では2者で市場の半分を占め、市場の成長の7割強を取り込んでおり、グローバルでも同様の力学が働いている。Verizon傘下のAOLが、交渉中のYahooのコア事業買収を成功させれば3番手になるものの、後続は粒状だ。

GoogleとFacebookは他を圧倒する人間行動データを蓄積している。両者のビジネスはともにデータとタッチポイントを活かした広告によるものだ。テクノロジー企業の消費者に接近した分野は突然Snapchatが流行るなどゲームチェンジが起きやすい。B2B領域の方が安定したビジネスを望めるため、2社がよりこの領域の事業を拡大すると予測するのは自然だ。

莫大なデータが生み出すであろう人工知能はマーケティングも大きく変える可能性がある。映画で親しまれる汎用人工知能(AGI)のレベルに達せずとも、案件の要件をクリアし、ある程度の条件付けを確保できれば、さまざまな利用可能性が想定できる。バイアスを含んだ「戦略」「理論」「ロジック」に対し、明確に計算量で対応できるような部分はマシーンに任せることが、近い未来に想定できるし、人の心や行動に影響を与えることをパーソナライズするには向いているだろう。パワーがあるレベルを越えると「これまでのマーケティングとは何だったのだろうか」という段階に達すると推測できる。

広告会社というカテゴリーの終わりの始まり?

広告会社は矢継ぎ早にデジタル領域への投資を進めている。広告ホールディングス世界3位のピュブリシスは2014年に37億ドル(約3700億円)で米デジタルコンサル・セイピエントを買収しグループの柱に据え、3月はセールスフォース専門のコンサルティングチームを買収するなど、新しいエコシステムへの順応を目指している。ベンチャーキャピタルにも意欲を示している。

電通の日本以外の事業を行う電通イージスは海外で積極的なM&Aを進めている。電通によると、2013年4月から2015年12月までの電通イージスによるM&A(約1200億円規模)のデジタル比率は43%だ。日本特有の構造からデジタル移行は他国より遅くはあるものの、電通デジタルの発足は国内でのデジタルテイクオーバーへの大きな一歩になるだろう。

電通のクライアントには製造業が多い。最大顧客のトヨタ自動車がUberと提携したように、顧客との接点に関しても「広告」に限らず、デジタルとリアルをクロスしたものになっていくだろう。ここでの「エクスペリエンス」に各者の投資が流れるが、エクスペリエンスもやがてバックグラウンドになる気配が感じられる。その次は何がくるのだろうか。

Written by 吉田拓史
Photo via Dentsu Digital