「中国のトレーディングデスクは、米国の10倍は不透明」:あるプログラマティック幹部の告白

米国のアドテク市場は透明性に欠けると非難されるが、中国の状況はもっとひどいようだ。

2016年6月に全米広告主協会(Association of National Advertisers 以下:ANA)が「メディアの透明性に関するレポートを公表し、アドテク契約のアバウトさが明るみに出た結果、米国のエージェンシー・トレーディングデスクは強い非難を受けた。ただし、レポートに書かれていたことの多くは公然の秘密という内容ばかりだったし、改革の訴えも単なるリップサービスの感が強い。

では中国はどうだろうか? あるプログラマティック広告のベテラン(大手持ち株会社の中国オフィスで幹部として働いていた経験があり、現在はベンダーサイドにいる)は、「中国は米国の10倍暗い影に覆われている」と語った。

今回の「告白」シリーズでは、この人物が匿名を条件に、中国のアドテクの状況について包み隠さず話してくれた。以下はその抜粋だ。明確にするために少し編集を加えている。

◆ ◆ ◆

――中国のトレーディングデスクは、影に覆われているというが?

中国のトレーディングデスクは基本的に、エージェンシーが安く買って高く売る「広告ネットワーク」だ。

エージェンシーは普通、ローカルなデマンドサイドプラットフォーム(以下:DSP)からインベントリー(在庫)を買う。DSPは、エージェンシートレーディングデスクに代わって、残っているインベントリーを整理・統合する。すると、20~30のパブリッシャーと交渉するのではなく、2~3のDSPと取引するだけですむので、エージェンシーの負担が軽減されるからだ。

しかし、収益モデルは曖昧になる。たとえば、あるエージェンシーがDSPに向かって、「お宅のプラットフォームに毎年100万投資するから、代わりにこちらに30%のリベートをくれ」というようなことも言えるのだ。

――リベートは米国内でも問題になっている

収益の上げ方に関して、中国に特有なもうひとつの影がある。

たとえば、クライアントがエージェンシーと100万元(約1650万円)のプログラマティック広告契約を結んだ場合、エージェンシーはお金の半分を実際の利益として確保し、残りの半分をDSPパートナーにメディア料として渡すことがある。このとき、クライアントは秘密保持契約にサインする義務があるが、これは、クライアントには監査権がなくなることを意味する。

中国ではほとんどすべてのトレーディングデスクがこうしている。一般的に、クライアントのメディア投資の30~50%は前払いで取られている。

――中国のトレーディングデスクは広告ネットワークだという話は興味深い。プログラマティック広告の成長は、広告ネットワークの犠牲のうえに成り立つと想定されるのでは?

そのとおり。米国と大きく違うところは、米国のトレーディングデスクはたいてい独自技術をもっているが、中国のトレーディングデスクはそうした技術スタックをまったくもっていないという点だ。

中国でトレーディングデスクができた背景はこういうものだ。大手エージェンシーは、いまから3年ほど前に、中国でトレーディングデスクを設けはじめた。当時の私の雇用主は中国市場に参入しようとしていたが、自社の技術スタックが現地ではまるで機能しないということが大きな障害になっていた。

すべてがGoogleとFacebookをベースに構築されていたためだ(中国ではFacebookはいまだに遮断されているし、Googleのアドテク・ビジネスも規模がかなり小さい)。つまり、私がいた企業は、西側では専有技術を自慢できたが、中国ではそれができなかった。

中国でプログラマティック広告をはじめたとき、すぐに利益を上げたい、もっと多くの人を雇用したいと考えた。このふたつの制約のなかで、私が勤めていたエージェンシーは、集団の購買力を活用して、残りのインベントリーを、たとえばCPMあたり10元(約165円)かそれ以下のような基本価格でまとめ買いして、高く売ることにした。これがそもそもの広告ネットワークモデルだ。

――中国のトレーディングデスクは、独自技術を開発できない?

いままでのトレーディングデスクは、広告ネットワークを集約し、途中に割り込んでいたに過ぎない。しかし私は、今年か来年にはなにか技術が登場すると思っている。私が知る限り、ひとつの大きな動きとしては、2017年には、世界的に使われている技術スタックのローカライズがはじまるし、ホワイトラベルでの技術サポート提供を求めるところもある。

――トレーディングデスクが価値を提供しないなら、クライアントが直接DSPとやり取りすればよいのでは?

多くのクライアントがそうしようと試みたが、ベンダーと直接やり取りすることは、中国ではまだ難しいデリケートな事柄だ。いろんなことが、お互いの関係性をベースにして成り立っているのだ。メディア上で指定広告代理店(AOR)と仕事をするときは、すべてが追跡可能で、コンプライアンスに則って行われる。トレーディングデスクが価値を提供しないケースがほとんどだとしても、より大手のクライアントは彼らとグローバルな取り決めを結んでいる。だから地域レベルではエージェンシーと手を組みたがるのだ。

――要するに文化の問題だと?

いや、DSPそのものも問題だ。ほとんどの中国のDSPは、従来式の広告ネットワークから派生し、進化した。前にも言ったが、安く買って高く売るというのが、広告ネットワークのモデルだ。ほとんどのDSPは実際には入札は行わない。

まとめ買いをしてきたなら、当然、まずは購入したインベントリーを売りたいと考える。まとめ買いをしない場合、彼らはエージェンシーのように行動する。たとえば、あるDSPがパブリッシャーのところへ行って、「入札額に関わらず、固定価格を払ってくれるなら、お宅のインベントリーに対して(これだけの額の)投資をする」ということができる。

つまり、リアルタイム入札は単なる空想物語なのだ。

――リベートが横行している、と

そのとおり。さらに、クライアントが、リードやeコマースの販売のようなパフォーマンスベースの重要業績評価指標(キー・パフォーマンス・インディケーター:KPI)を求める場合には、倫理に反する慣例がいろいろと飛び出す。

たとえば、自動車会社がDSPに対して金額Xを支払ってリードYを生成するとしよう。そのDSPは、メディア費用の一部を蓄えておいて、そのお金で大学生を雇い、偽リードにして、ブランドが確証を欲しがった場合に、電話応対させるかもしれない。こうした戦術は、データを使ってメディア購入を最適化することとまったく関係がない。

――すべてのシステムが破綻しているように見えるが、透明性はどうやって確保されるのだろうか?

中国の大手広告業者は、DSPに入札ログの提出を求めていて、百度(Baidu)やアリババ、テンセント(騰訊)が運営するアドエクスチェンジとも関係を築いている。パブリッシャーと直接、プログラマティック広告の契約をするところもある。そうすることでブランドは、契約の詳細についてパブリッシャーと直接会話ができる。

同時にトレーディングデスクやDSPは、プロセスを簡略化し、インベントリーの質や価格のような、ビジネスの商業サイドには関わらないですむ。中規模以上の広告主はプログラマティック広告を理解しはじめたところだが、小規模な広告主はまだ騙されている。あるいは、リベートを取られているのを知っていても気にしていないのだ。

Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)
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