「エージェンシーに模範例など存在しない」:元エージェンシー幹部の告白

匿名と引き換えに率直に語ってもらう告白シリーズ

今回は、担当事業が過去のやり方に縛られているという懸念から、巨大ホールディンググループを辞めたエージェンシー上級幹部の見解を紹介する。彼は、「エージェンシーの模範」を見つけようとしても無駄な努力に終わると語った。

わかりやすくするために、会話は少し編集している。

——巨大ホールディンググループの職を辞した理由は?

この業界の将来を占う人々は、自身の掲げる次世代の「エージェンシーの模範例」を称賛し続けている。ばかげた話だ。エージェンシーの模範など存在しない。多種多様なクライアントやパートナーたちと多種多様な方法で連携できる企業として、自身の実力を見せることが求められるのであって、「模範」といわれる、ひとつの例に固執するのはまったくおかしな話だ。

単なるコミッションベースのものから、会社の株式を受け取るやり方に至るまで、現在我々は(転職先の、新しい職務で)クライアントに対して6つの異なる商業モデルを展開している。他の企業に優先パートナーステータスを設けたりせず、共有収益をいかなる形でも支払ったり、請求したり、これらの組織からインセンティブを得ることもない。

クライアントに対してすべてが揃うワンストップショップを構築しようと業界のネットワークが継続して努力しているのは、個人的にはすごいことだと感じている。この素晴らしい業界が提供できるすべてのものからできる限り最高のものを利用したいと願うクライアントをそのやり方でわずかでも惹きつけることができるのか、私にはわからない。

——エージェンシーへのプレッシャーを考えると、クライアントのためにワンストップショップを構築する試みは口でいうほど簡単ではないのでは?

ほかの当事者と互いの利益になる関係を確立することは、けっして容易ではない。そして、相手と相互利益が出るようにバランスを保つことは同じように難しいことだ。我々は皆、ときに物事を必要以上に複雑にしてしまいがちだ、そしてパートナーと良好な関係を築くことが、次に来るトレンドだというイメージを構築しようとしており、そしてそれに名称までつけようとしている。

それを素晴らしいこととして盛り上げようとすれば、すぐにプレッシャーをかけられて、失敗し、期待に応えることはできない。志を同じくする企業と連携し、試行錯誤してみるアプローチを採っているというのが、我々がやっていることのすべてだ。

——いま述べたことをどうやって実践している?

前回の会計報告では、年間請求額1500万ポンド(約23億円)と100万ポンド(約1.5億円)を超える収益を予想していた。断ってしまった新規ビジネスのリードを加えれば、この数字はもっと大きくなっていただろう。

新規のビジネスは不安定なものだ、そして会社のオーナーであれば、その会社が自身の個人的な幸せに大きく関わってくる。そう、まさに個人的な問題だ。我々はクライアントの成長を尊重しているが、クライアントはこちらの成長についてそれほど尊重しないのであれば、断りを入れ、付き合いをやめ、別の企業にそのクライアントを任せてしまうべきだ。

透明性に関して我々の方針を妥協したり、クライアントのために最高の仕事を創造することをひたすらめざしたいのに、それができなくなるような提案に対しても、「ノー」というべきだ。自分たちが作り上げようとしているものを考えれば、どんなときでも例外はなく、自分たちが約束したことを絶対に実行しなければならない。

——それは、ほかのもっと大きなエージェンシーが取り組んでいると語っていることでは?

申し訳ないが、ほとんどのメディアエージェンシーは何らかの形で問題を提起しようとしているとは見えない。彼らは皆、同じことを違う方法で伝えようとしている。「横並び」の戦略から物事を「あまり複雑にしない」ようにすることまで、彼らは一様に同じことをめざしている。つまり、それは団結しているのと一緒だ。

データ、コンテンツ、そしていわれているテレビの終焉(もちろん、雑誌も含まれている)について「物議を醸す」レトリックのすべてをひとつひとつ取り上げることは控えておこう。それぞれの事例で、ほかの何よりも自分たちの利益のためにエージェンシーたちが行動していることを裏付ける証拠を、さらに目にすることになるだけだ。

——巨大ホールディンググループを去ることで、得た重要な教訓は何か?

1億ポンド(約151億円)強の売上と影響力のあるクライアントをいくつか抱える大きな事業の担当責任者から、創業から5カ月経ってやっと最初のメディア契約ができたスタートアップに転職すれば、自分をサポートしてくれる人間と自分にとって厄介な人間が誰かはすぐに見分けがつく。

奇妙な感覚だが、ときには、自分が築こうとしていることに対する自分の信念を振り返る機会にもなる。少しでも前に進みだせば、状況は素早く変わりはじめ、自分の信念とめざす方向も広がりを見せるというのが現実だ。

実に興味深いのは、自分にとって厄介な人間たちの存在は自分のやる気を高めてくれて、自分を助け、長い付き合いもある人間たちは決して忘れることはないということだ。もちろん、それによって我々の公平性が損なわれるということはないといっておこう。

Seb Joseph(原文 / 訳:Conyac)