アドテクの大いなる「勘違い」を払拭せよ:デジタルマーケティングの課題を示唆する「気づき」とは?

本記事は、「Forbes.com」の元CEOであり、米インタラクティブ広告協議会(IAB)名誉会長、スパンフェラーメディアグループのCEOであるジム・スパンフェラー氏による寄稿です。

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飛ぶ鳥落とす勢いを見せ、浮かれまくっていたアドテク業界が、夢から覚めた感がある。かつて、近場でコーヒーが飲める店を探すのと同じくらい簡単にベンチャー投資の口が見つかっていたアドテク業界は、約束を果たせず、収益は伸び悩み、痛みを伴う急激な縮小整理に追い込まれていった。豊富にあったベンチャー投資の枯渇とともに多くの注目企業も苦境に陥り、株価は下落し、総じて冷え込んだ空気が業界を覆っている。

現在の状況に至った理由はさまざまだが、多くの課題は、プログラマティック広告のコアブロックが存在していない、あるいは少なくとも「まだ」存在していないという「気づき」に根ざしている。これは、プログラマティック広告に未来がないということを意味しているのでは、もちろんない。プログラマティック広告が未来を担うことに変わりはないが、今後数年にわたり、これまでとは異なる扱いのなかで、新しい意義が見出されるという意味だ。

アドテクおよびプログラマティック広告の急激な普及と、現在の停滞をもたらした、大いなる「勘違い」をここで検証してみよう。

広告在庫は無尽蔵ではない

広告インベントリー(在庫)が無限に存在したことなどないのだが、いま業界はやっとその勘違いに気づきつつある。フラウド(虚偽)あるいは不可視のインプレッションにより、バイヤーがどんなに低価格で入札しても、なんらかのデリバリーが可能であるという幻想が生まれてしまったのは事実だが、実際には、異様に低いインプレッションには、異様に低いだけの理由がある。つまり、人間の目に触れていないのだ。

業界がビューアビリティスタンダードとフラウド検出の課題を突き詰めていくにつれ、現実がより明らかになってきている。エコシステム全体がビューアビリティ拡大への動きを追うなか、多くの中間層(つまり、マーケターと実際のパブリッシャーの中間にあるエリア)が大きな痛みを吸収することになるだろうが、究極的には、ビューアビリティの改善はエコシステム全体にとって歓迎すべきことだ。

ターゲティングの落とし穴

アドエクスチェンジ(または、アドネットワークそのもの)を経由してオーディエンスをターゲティングするのに、サードパーティデータを利用することは、ほとんど不可能だと業界のデータサイエンティストは伝えている。ファーストパーティデータを利用するほうがいいのだが、その場合は、データの量が減少するので、潜在的なインプレッション数を劇的に減じてしまうという問題がある。

コムスコアやニールセンがアドターゲットトラッキング製品を開発し、特定のオーディエンスだけを確実にターゲットできるという主張には綻びが見えてきた。データの陳腐化、botに感染したコンピュータ上の合成cookie、単一マシンの複数ユーザー使用といった問題があり、cookieベースのターゲット広告は、規模が大きな舞台では、単純に「使えない」のだ。

もっとわかりやすく説明しよう。現在、自動車の購入を検討している消費者の個別cookieを、四半期のタームで2500万以上購入できる。これはつまり、米国で1年の間に、およそ1億台の新車が購入またはリースされることを示唆している。しかし、実際の販売台数は、年間で1000万台程度であり、潜在的な購買規模に対し、10倍ものインフレを起こしているのだ。

結局のところ、デモグラフィック(属性)やオーディエンスベースの広告購入は、製品やサービスを購入する可能性がもっとも高い消費者を検出する上での「プロキシ(代理)」なのである。位置情報ベースのバイイングにもついても同じことが言える。だが、位置情報ベースは、プロセスが単純だ。

位置情報ベースの欠点は、規模が大きな購入の場合、非常に時間がかかり、そのためメディアバイイング・エージェンシーにとって、利益を出すのが極めて難しくなる点だ。現在よりも効率良く位置情報ベースの広告を購入するプログラマティックな方法がいろいろあって然るべきだろう。

無駄に複雑でコスト高のプロセス

最近のアップネクサス(AppNexus)イベントにおいて、CEOのブライアン・オーケリー氏は、現在のアドテクスペースを、「いままで購入したすべての電子機器の古い配線ケーブルが入れてある箱」にたとえている。

どのケーブルがどの機器に接続するのかまったくわからず、どれが本当に必要なピースなのかもわからない、混沌・雑然とした内容物でいっぱいの箱。誰もがこの箱を持っていると思うが、実に的を射た表現である。テクノロジーの増殖により、シンプルでコストのかからないプロセスを生み出すべきテクノロジーが、まったく逆の、無駄に複雑でコスト高のプロセスを生み出してしまったのだ。

このプロセスは、インプレッションが無限にあり、極めて廉価であるという考えがあったから存在できたにすぎない。いま我々は、改めて「質」の重要性に気づき、真のインプレッションは無限どころかその真逆であり(しかも日々値段が上がりつつある)、アドテクが約束していながらまだ実現されてない、効率的なプロセスに到達する方法を発見する必要があるのだ。

これは一朝一夕に実現できるものではないが、実現は可能であり必ず達成される。自由経済は、時間の経過とともに効率性を追うのが常である。現在、市場がその効率性を求める時点に達しており、このデマンドによる中間層の淘汰は避けられない。マーケターのカネがバイヤーからセラーに渡る過程で、サービス会社の多くが打撃を被っている。

KPIの罠、botという不純物

多分、これが現在もっとも大きな勘違いであり、正直なところ、業界の誰もがこの問題に手を染めている。根本的な問題は、KPI(業績評価指数)を置くべき場所が間違っているということなのだ。クリック数や閲覧数、「購入」以外のアクションが、我々の提供するソリューションなのか?

クリック数などのKPIは、我々が知らないうちに(あるいは承知の上で)、botが生成する虚偽データで水増しされていることがほとんどだ。良くできた悪質なbotネットワークを管理しているのは、実に頭がいい連中だ。

クラッカーたちは、さまざまな点で人間そっくりの行動ができるbotを開発しており、人間よりもいくぶんbotのほうが利口にできている。こうしたbotは、ページをスクロールし、広告をクリックし、特定のcookieを集め、フォームの記入だってやってのける。やらないのは実際の商品購入だけだ。

虚偽のインプを排除する試み

アドエクスチェンジを利用したキャンペーンを「クリック」に対して3回最適化すると、botトラフィックが90%以上に達すると言われている。サードパーティcookieの最適化についても同様だ。念の為に言っておくが、アドエクスチェンジ大手の多くは、botによるインプレッションを削減するべく多大な努力を払っている。

実際、アップネクサスでは、虚偽インプレッションをフィルタする新しいプログラムにより、プラットフォームのトラフィックが65%減少したと述べている。最初の一歩としては上出来だが、より「純粋な」メディア目標を設定できるまで、まだまだ長い道のりがある。

さらに、「クッキースタッフィング(botによるアフィリエイト詐欺)」がはびこっている事実を考慮すると、ビュースルーのKPIでさえ、まやかしにすぎないということがわかるだろう。

最高ではないものの機能している

現在、多くのマーケターは、KPIが好調なのに売上は伸びないという事実に直面している。これはもちろん、ブランドベースのマーケターにとって、より理解し難い問題である(ここではブランド研究が大きなヒントになるかもしれないが)。しかし、直接的な問題ははっきりしている。マーケターにとってのKPIは急速な変化を見せており、これに伴いマーケターの行動も変わってきている。

ここではっきりさせておきたいのは、デジタルマーケティングが「使える」ことには変わりがないという点だ。ほかには見られない勢いで、デジタル広告に割かれる予算が毎年増加しており、デジタルがマーケターの広告予算のなかでトップの位置を占めつつあるのには、現実的で妥当な理由がある。実際、デジタルアドは我々が考えているよりも良く機能している。

上に述べた課題を総合すると、全体的な成果に対し、我々が成功の証と見なすコンポーネントが間違っているのだ。こうしたあまり役に立たないコンポーネントをなくしてしまえば、キャンペーンのコアバリューはずっと大きなものになる。もちろん、CPMの上昇は避けられないだろうが、マーケターの資金の一部ではなく、すべての資金を望ましい結果の獲得に費やすことで、マーケターが生み出す全体的なバリューは、CPMの上昇よりもずっと大きな割合で増大するだろう。

媒体社とマーケターが迎える移行期

結局、広告予算がデジタルプラットフォームへの移行を続けているのには、それなりの理由がある。ここで検証した「勘違い」が、「勘違い」であったと業界が納得したからといって、デジタルプラットフォームへの移行が止まるわけではない。それどころか、こうした勘違いに気づくことは、デジタルへの移行をさらに加速させるだろう。また、業界はさらなるオートメーションを必要としている。将来的にオートメーションが進まないなどと考えるのはいささか馬鹿げている。

ただ、我々が今後導入するオートメーションは、確固たる事実を元に開発され、エコシステムにおいてもっとも重要な2大プレーヤーを助けるものでなければならない。2大プレーヤーとはすなわち、オーディエンスを生成するパブリッシャーと、製品やサービスの販売にオーディエンスを利用するマーケターである。

Jim Spanfeller(原文 / 訳:片岡直子)
Image by Thinkstock/Getty Images
*[日本版]編集部註:米DIGIDAYによる本記事の原文では、AppNexusが虚偽インプレッションをプラットフォームからフィルタする記述について、訂正が加えられました。