コグニティブ技術搭載の「金融仮想アシスタント」が登場:チャットボットを超えて

ある金融サービス企業が先ごろ、金融関連のアドバイスを提供するプラットフォームをローンチした。このプラットフォームは、広告業界3位ピュブリシスグループ傘下のコンサル企業、ピュブリシス・セイピエント(Publicis.Sapient)が開発した人工知能(AI)によって完全に制御される。

かつてなら、このようなサービスでアドバイスを提供するのに、人間による1対1のやりとりや、何時間にもおよぶ調査を必要としただろう。こうしたサービスが必ずしもスケールするとは限らない。それでも、このプラットフォームは、たとえば「ポリシーの変更がクライアントのポートフォリオにどのような影響を与えるか」といった問い合わせに対し、ものの数秒でアドバイスを提供するように設計されている。

ついにここまで来たAIに、もはや「チャットボット」という呼び名はふさわしくない。

AIとチャットボットは違う

ピュブリシス・セイピエントで行われている60人体制のAI事業は、テキーラのパトロン(Patron)やトイレタリーのダブ(Dove)をはじめとするブランドと連携して、カスタマーインサイトを生成。間接費の削減、事業の効率化、オンライン対話のエンゲージメント向上などに貢献している。ピュブリシス・セイピエントでデータおよびAI部門のグローバルヘッドを務めるジョシュ・サットン氏によると、この事業ではAIツールに「数百万ドル(数億円)」が投じられつつあり、同社の成長にとって最大級の原動力になってきたという。

AIはこれまで、話題先行の面が少なくなかった。だがサットン氏によるAIの位置づけは、リサーチツール、検索プラットフォーム、レコメンデーションエンジンなどの開発に使用可能なコグニティブ技術、というものだ。

「我々は現在、ビジネストランスフォーメーション戦略とAIツールに焦点を当てている。当社の顧客には、CEOやCMO、CIO(最高情報責任者)などが混在している」と、サットン氏。「チャットボットについて耳にする機会は何度もあった。だが、それが話題になることも近い将来なくなるだろう。直接的な質問に答える以外には、大したことをしていないからだ」。

バーチャルアシスタント

ピュブリシス・セイピエントは現在、次の3つの分野にAIを適用している。ビジネスの促進、インサイトの創出、そして会話とエンゲージメントだ。たとえば、サットン氏のチームは最近、数十億ドル(数千億円)規模の某電子機器メーカーに依頼されて、モバイル向けレコメンデーションエンジンの改良を手がけた。サイト訪問者が得る情報の関連性と有用性が向上したため、そのクライアントのデジタル売上は3週間で10%増加したという(サットン氏は具体的な金額を明かさなかった)。

もちろん会話のスクリプトは存在するが、それはチャットボットの域を超えるものだ。サットン氏の予想では、小売業者は2017年中か来年早々にも、スクリプト化された質問に答えるチャットボットから、質問の意図を明確にすることで回答の精度を高める機能も備えるバーチャルアシスタントに移行するという。

たとえば、消費者が「ジャケットがほしいけど、何か私に合うものはある?」と尋ねたとしよう。バーチャルアシスタントはその人の買い物パターンを分析して、気に入りそうな色を特定。さらに、どこかに着ていく予定があるのか、どんな状況でジャケットを活用したいのかなどを質問してから、商品の候補を提案する。

「理解の程度が格段に高まる。より複雑だが、それだけ精度向上という形で報われる」と、サットン氏は語る。

まだヨチヨチ歩きの段階

AIの世界市場は、2020年までに160億ドル(約1兆8000億円)規模に達すると予想されている。「AIが話題にのぼるとき、一般にはチャットボットを指しているが、これは大きな問題だ」と、フォレスターリサーチ(Forrester Research)のシニアアナリスト、ブランドン・パーセル氏は指摘する。「自然言語処理を備えるバーチャルアシスタントが、機械学習と、さらには深層学習との組み合わせで強化される。それこそがAIだ。コード化されたスクリプトを使ってボットを開発するのなら、それはAIではない」。

実際、ボットは逆風にさらされている。使いづらく、想定されていたほどパーソナライズされてもいないからだ。

ピュブリシス・セイピエントのほかにも、チームワン(TeamOne)やMDCメディアパートナーズ(MDC Media Partners)をはじめとする多くのエージェンシーがAIサービスを提供している。だが、現在エージェンシーがAIを使って実行していることは、まだヨチヨチ歩きの段階だ。パーセル氏によると、マーケターはかなり前から「適切な顧客を見極める」ことが可能になってきたが、現状ではまだ誰も、膨大なデータを真に活用して、高度に絞り込んだ対象に「ふさわしいタイミング」でメッセージを伝えられる段階にはなっていないという。

特定の価格モデルはない

ピュブリシス・セイピエントは、同社が提供するAIサービスに特定の価格モデルを設定していない。固定報酬ベースの場合もあれば、プロジェクト単位で決める場合もある(通常、AIプロジェクトに必要とされる人員は10人以下で、コンセプトから実行までにかかる期間は約3~4カ月)。サットン氏の話では、業務の性質に応じて、経営コンサルタント業務のような時間決めの料金モデルになることもあるという。

いまのところはまだ、大半のブランドはAIプロジェクトのための独立した予算を確保していない。サットン氏の見方では、企業は実際にAIに何ができるのかを十分に把握していないため、AIの資金はマーケティング費用、事業費用、技術費用などのさまざまな予算によって賄われているという。

「大きな課題は、当社のクライアントに対し、AI駆動型ソリューションに関連する設計の重要性を理解してもらうことだ」と、サットン氏。「結局のところ、コグニティブ技術は単なるツールにすぎない。これからまだ、有意義な事例に使われて根づいていく必要がある」。

Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)