AIは職を奪わず、人間と協調する:人工知能学会 会長 山田誠二氏

人工知能学会 会長 山田誠二氏はガートナーITインフラストラクチャー&データセンター サミット(4月26日〜28日)で講演した。山田氏は国立情報学研究所 教授、総合研究大学院大学 教授、東京工業大学 特定教授も務めている。山田氏はマスメディアで語られている「人工知能が職を奪う」は誤りであり、人間とAIは協調していく、と主張した。

「いまはAI第3次ブーム。ガートナーが発表している『日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2016年』は世間一般のイメージと重なっている印象だ。いまの『人工知能』が丁度過度な期待のピークであり、IoTがハイプ・サイクルの下降局面に当たるだろう」。

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出典:ガートナー (2016年9月)

「ビッグデータの利用に関しては、アカデミズムでも議論になっている。人のライフログで行動を逐一記録した後、それをどう使うかなど、ビッグデータに対する決定的な答えはまだない」。

山田氏は「人工知能とは『人間並みの知的な処理をコンピュータ上に実現』することだ」と話した。「この言葉で研究者のコンセンサスが比較的とれている。ただし、これらは曖昧な言葉を使ってある。掘り下げると哲学的になる。『知性とは何か?』『昆虫に知性はあるのか?』というふうに」。

AIには今回を含め3回のブームがあり、第2次AIブーム時(1970〜80年代)では、日本は通産省(当時)中心で新世代コンピュータ開発機構(ICOT)を設立し、第5世代コンピュータープロジェクトを進めていた。当初は世界的な注目を浴びるプロジェクトだったが、うまく実らなかった。

「ICOTでは人間と同じ高度な推論をやろうとした。だが、人間は無意識でやっていることを言葉で説明できない。つまり記号化できない。プロジェクトは高度な医療の診療などを目指していたが、医者が抽象的、論理的にやっていると考えられたことでさえも、言葉で明確に説明できないことがわかった。実はかなりの部分が無意識に、感覚的にやっていることに依存していることがわかった。言語化できないことはプログラムでは書けない」と山田氏は説明する。

「昨今は機械学習ベースのAIが流行っている。機械学習は『これは腫瘍が写っているCT』だと実例を与えられると『それをどうやって判定しているかは説明できないが、判定することができる』という仕組みだ」。

AI VS 人間のウソ

「AIは人間の知的な処理をほとんど代行できる」「AIは人間のほとんどの仕事を奪う。人間を支配する」−−。マスコミではこのような言説が出ているが誤りだ、と山田氏は指摘する。

「AIを人間に近づけるのはなかなか難しい。人間は極めて複雑な生物だ。生物は何十万年かけて莫大な並列計算を行い、世代交代を繰り返し、それである種の条件に合うような機能を身に着けた。20〜30年で限られた演算しか行わないコンピュータで同じことをするのは直感的にも難しいと感じられる」。

山田氏は「AIは単なるプログラムという基本的な理解が重要であり、過度な擬人化は非生産的だ」と指摘する。

ニューラルネットワークの復権

「第3次のAIブームはニューラルネットワーク(NN)という手法が牽引している。その前にデータマイニングがあった。データマイニングのよくある例はPOSデータから『おにぎり買った人はお茶を買う』などを発見すること」。

NNは神経科学をそのベースに組み込み、人間の脳を単純化しながら再現している。

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Via CS231n: Convolutional Neural Networks for Visual Recognition

「AIの研究分野は広範囲に広がっているが、研究としての主流は論理や記号など、知識を扱うものが多く、機械学習(ML)は、AIのごく一部である。機械学習はNNの一部。ディープラーニングはNNの一部。『人工知能=ディープラーニング』というのは間違い」。

「ディープラーニングを前進させた畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は福島邦彦氏が1979年に提唱したネオコグニトロンの枠組みとほぼ同一だ。当時は計算機が貧弱で簡単な文字認識にしか応用できなかった。現在は深いNNの学習を可能にするデータとコンピューターパワーが利用可能になった」。

福島氏の偉業はグローバルの人工知能学者が常にメンションするレベルだが、日本では余り知られていない。

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出典:人工知能学会 会長 山田誠二氏(2017/4/26)

「(多数の層が連なる中で)一層目など入力に近いのは何が起きているかわかる。でも中間の層では何が起きているのかがわからない。『黒魔術的』なチューニングが必要になる」。

ディープラーニングの成功例には一般物体認識や音声認識がある。囲碁、将棋、チェス、テレビゲームの分野は近年脚光を浴びている。

いわゆる「ゲーム」の分野ではモンテカルロ木探索と強化学習の組み合わせが功を奏した。「ゲームはツリー構造にできる。モンテカルロ木探索の探索空間は広いが、時間をかければ全部探すことができる。全部は調べないが、その一部から全体を予測する。ディープラーニングが全部使われたわけではない」。

ディープラーニングは万能じゃない、と山田氏は語った。「おびただしい数のパラメーター。『黒魔術的』なチューニング。畳み込み層がいくつか必要なのかはわりと感覚的にきめている」。

AIには得意・不得意がある。「人間が無意識にやっていることは人間にとって簡単。AIにとって難しい。人間はそれを説明できないので、動かす関数がつくれない」。

「『ロボットが自分が乗っている枝を切ると枝ごとロボットが落ちる』。人間はすぐにこれが分かるが、ロボットがこれを判断するには多くの前提を必要とする。『自分が枝の上に乗っている』『枝が重力で落ちる』などの物理的『常識』や社会的『常識』などを組み合わせないといけない。厳密に考えていかないとプログラムにならない。判断に使われる膨大な量の知識をプログラムで書き尽くせない」。

人間と協調するAI

「AIが日本の労働力不足を救うはずだ。人間とAIの労働の役割分担を行わないといけない。その結果人間がやるべき仕事が明確になるだろう」。

「AIに自然言語で指示を与えると、作業をやってくれる。AIが何が得意かを知らないといけない。上司が部下のことを知らないといけないように」。

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出典:人工知能学会 会長 山田誠二氏(2017/4/26)

日本の企業に期待されることは応用を受け入れることだ、と山田氏は主張した。「アカデミズムは『こういうことが社会が必要じゃないか』というのをアタマのなかで考えてしまう。実はそういうのはいらなかったということがあり、企業と協力する必要がある」。

「人間と仲良くなるAI、インタラクティブなAIをつくるべきだ。人間とコンピュータがペアになるアドバンストチェスや航空機の操縦などは好例だ。『AIを入れると仕事がなくなる』という不安が煽られているが、その心配はない」。

Written by 吉田拓史
Photo by GettyImage