ラグジュアリーブランドに熱視線を送るエージェンシーたち:しかも、利益は二の次で

大手エージェンシー(広告代理店)たちにとって、贅沢品や高級品などを取り扱うラグジュアリーブランドは魅力的なものだ。多くのエージェンシーがラグジュアリーブランドを担当する中小代理店を買収しているが、利益目的のために買収しているのではない。そのクライアントである、ラグジュアリーブランドの気品や高い評判を買おうとしているのだ。

2016年の1月7日、広告世界2位オムニコム傘下のBBDOがウェンズデー・エージェンシー・グループ(Wednesday Agency Group)の株式を半数以上取得すると発表した。ウェンズデー・エージェンシー・グループはトリーバーチ(Tory Burch)やセオリー(Theory)など、多くのラグジュアリーブランドのエージェントを担当している。

ウェンズデー・エージェンシー・グループの共同設立者であるイェンス・グレーデ氏は、今回のBBDOによる株式の買収について、より深いデータとより高い分析能力をもつ大企業と提携するチャンスだと捉えているという。BBDOにとっては、魅力的なラグジュアリー市場に参入するチャンスだ。

新規参入が難しい業界

「大手ネットワークエージェンシーたちは、いまだこのラグジュアリー市場で成功していないが、それは努力をしてこなかったからということではない」と、グレーデ氏は米DIGIDAYに対して語った。彼によると、常に商品を変化させることができて、この狭い業界で成功したいと願うエージェンシーだけが成功できるという。

「独特な風習や、業界ルールが多く存在する小さな業界だ」と、フランスのパリに拠点を構えるラグジュアリーショップ(小規模代理店)「セイム・セイム・バット・ディッファレント(Same Same But Different)」の設立者であるミシェル・カムパン氏は話す。

セイム・セイム・バット・ディッファレントは2015年末に電通イージス傘下のクリエーティブ系グローバル代理店のマクギャリー・ボウエン(McGarryBowen)に買収されていて、自身の社名もマクギャリー・ボウエン・ラグジュアリーに変更した。そして、カムパン氏は「別の業界から参入してきて、成功することは不可能だ」と続ける。

だからこそ、このようなM&Aによる合併と買収が行われているのだ。

高級ブランドに群れる代理店

しかし、こうした合併や買収は、利益のために実施されているわけではない。複数のエージェンシーのコンサルタントによると、小売業やラグジュアリー産業以外のビジネスのマージン率は約13%から15%だというが、ラグジュアリー産業のマージン率は約10%から12%と、むしろ低い。また、ラグジュアリー産業のマーケティング予算は少ない。広告費にはそれなりの費用をかけているが、ほかの業界と比べるとやはり予算が少ないのだ。

とあるエージェンシーの役員は、これを「群れる心理」と呼んでいる。もしひとつのエージェンシーがラグジュアリーブランドを担当することとなると、ほかのエージェンシーでも同様にラグジュアリーブランドを担当したがるようになり、連鎖がはじまるということだ。

最終的には全員が同じ顧客を巡って競争をはじめる悪循環に陥る。この役員によると、ラグジュアリーブランドは一般企業と別次元にいて、競合するケースは滅多にないという。

待ち受ける高いハードル

また、別の問題として、ラグジュアリーブランドを顧客とするのはとても難しいことが挙げられる。多くの場合、ラグジュアリーブランドの社内には商品やマーケティングを入念に確認している部署が存在するためだ。

「トリーバーチとP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)では、それぞれエージェンシーに望むものがまったく異なる」と、グレーデ氏はコメントする。一方でカムパン氏は、彼のクライアントたちはエージェンシーのスタッフを重要視すると話す。エージェンシーのネームバリューではなく、人材の質を優先しているというのだ。

ラグジュアリーブランド業界はいま、デジタル技術の進歩により業界全体が盛り上がっている。ラグジュアリーブランドはeコマース企業やデザインエージェンシーとは積極的に仕事をしてきたが、マーケティングは社内で行ってきた。

デジタル活用が進む高級ブランド

しかし、この6年で多くのことが変わってきた。バーバリー(Burberry)のようなブランドたちが、eコマースやデザインエージェンシーを社内に統合させ、これまでのビジネスモデルを変えたためである。このことにより、エージェンシーによる総合的なサービス提供を要望する声が多く挙がり、従来の広告代理店が参入するようになった。

広告世界1位WPPの中核広告代理店ジェイ・ウォルター・トンプソン(J. Walter Thompson New York)のグローバルビジネスディレクターであるグレッグ・マクコネル氏は、ティファニー(Tiffany)、BMWやエルメス(Hermès)のようなラグジュアリーブランド企業はすべてデジタルを活用することを学んでいると話す。「デジタルを活用することにより、ラグジュアリーブランド企業はより深いブランドエクスペリエンスを顧客に届けることができるようになり、顧客の欲望の増進にもつながる」と、彼はコメントした。

もしエージェンシーがLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパンのような世界的コングロマリットと仕事をする機会を得たのならば、そのエージェンシーにはLVMHのブランドに関する仕事が絶え間なく与えられる。「巨大なラグジュアリーコングロマリットは以前よりも複雑化している」と、コンサルティングファームのアークアドバイザーズ(Ark Advisors)のコンサルタントでありパートナーのアン・ビロック氏は話す。「巨大なコングロマリットを相手にするのは、大きなエージェンシーの役割だ」。

エージェンシーの名声が高まる

しかし、シャネル(Chanel)やエルメス(Hermès)などの名高いブランドと仕事をしたという名声は捨てがたい。また、これらのラグジュアリーブランドたちは文化的にも奥深い部分もあるため、単純に一緒に仕事をするのが楽しいとエージェンシーの役員たちはいう。また、顧客の名簿リストにグッチ(Gucci)など、ラグジュアリーブランド名が書かれているのといないのでは、ほかの顧客にとっても大きな違いがあるのだ。

「ラグジュアリーブランドこそ、エージェンシーがもっとも欲しているタイプの企業だ」と、マクコネル氏は話す。「エージェンシーに名声や高い評判を与えてくれる」。そして、ラグジュアリーブランドと仕事をすることは素晴らしい体験だ。なぜなら、ラグジュアリーブランドには「力強いメッセージを発信する勇気と欲望があり、そのために資金を費やす意欲もあるからだ」と、マクコネル氏は付け加えた。

Shareen Pathak(原文 / 訳:BIG ROMAN)
image by Luis Villa del Campo(CreativeCommon)