コストを自ら負担してでもVRに取り組むエージェンシー:ブランドの説得に躍起

2016年は、VR(仮想現実)元年といわれている。しかし、多くのブランドの注目を集める一方で、VRはまだまだ彼らの財布の紐を緩めるまでには至っていない。そんななか、この流行に乗り遅れたくないエージェンシーたちは、コストを一部負担してまで、VRキャンペーンに取り組んでいる。

アイソバー(Isobaar)のイノベーション部門のグローバル責任者かつバイスプレジデントであるデイブ・ミーカー氏は次のように語る。

「エージェンシーがクライアントに提案するにはポートフォリオが必要だ。それには自分たちでプロトタイプを開発するか、クライアントのメディア・プランニング予算の一部をイノベーション用に当てるかのどちらかが必要になる。VRのような新しいテクノロジーを試すリスクを取りたくないクライアントもいるだろう。その場合は、エージェンシーが自分たちでリスクを取り込む必要が出てくる」。

アイソバーは一部負担で実施

アイソバー・オーストラリアのチームによるVRプロジェクトの第一弾が、昨年リリースされたゼネラル・モーターズのシボレーのための「CoDriver(共同ドライバー)」だ。360度ビデオ、3Dゲーム・エンジン技術、サラウンド音響、車内振動、そしてオキュラスリフト(Oculus Rift)が組み合わさっている。ニュージーランドの山腹を走り抜ける、シボレーのドライビング体験を味わえる内容だ。

このプロジェクトの開発のために、アイソバーは最先端の録音技術とシネマティックVRのための設備費用、そしてトレーニング費用を負担した。その一方、ゼネラル・モーターズはキャンペーンに対して料金を支払い、バンコク・モーターショーで利用したという。

「VRは新しい媒体だったので、私たちが学ぶ機会として投資をし、そのコストはクライアントには計上しなかった。同時に、私たちは繰り返し利用できるソフトウェアの枠組みを作れたので、『CoDriver』を多くのほかのマーケティングに取り組むことができるようになった。ゼネラル・モーターズとしても開発コストの節約になった」と、ミーカー氏は説明する。

ほとんどのブランドは様子見

VRとAR(拡張現実)への投資は2016年の第一四半期で170万ドル(約1億8000万円)に達した。M&Aアドバイザーのデジ・キャピタル(Digi-Capital)によると、これは2年前の25倍だ。ゼネラル・モーターズ、ペプシ、コカコーラ、そしてマクドナルドが、ただの360度映像に留まらないVRコンテンツを提供している。しかし、ほとんどのブランドは、まだ様子見をしているようだ。製作に資金を要するのはもちろん(VRビデオは何百万ドルもかかることもある)だが、その投資利益率を計る基準がないのだ。

しかしエージェンシーたちはこの新しい媒体に、ブランド側よりもはるかに興奮しているようだ。クライアントたちがためらっている一方で、強く可能性を信じているエージェンシーたちは無償の労働を割いてでても、この新しいテクノロジーがビジネスに利益をもたらすことを証明しようとしている。

「新しい媒体が登場したとき、エージェンシーというのは経験と信頼を得るために、しばしば自分たちのブランドで取り組もうとしたりする」と、エージェンシーであるアイクロッシング(iCrossing)の担当者(匿名希望)は米DIGIDAYに語った

無償提供という狂気の沙汰

もちろん欠点もある。業界は何百万ドルも毎年新しいビジネスの売り込みに費やしている、とホライズン・メディア(Horizon Media)のCEO・プレジデントであるビル・コウニグスバーグ氏は2016年の4A’sカンファレンスで指摘する

「業界全体で私たちは400万ドル(約4億4000万円)を超える無償労働を費やし、生み出した成果物を無償で提供してしまっている。私たちは何百万ドルものナレッジキャピタルを無償で譲っているのだ。自分たちのプロダクトの価値を下げ、無償でサービスするという狂気の沙汰は止めなくてはいけない」。

VRのような新しいテクノロジーはこれまでも広告業界を大きく変化させてきたとミーカー氏は言う。他社との差別化を図るため、エージェンシーは自分たちがイノベーティブな考え方を保持する業界の先駆者であることをマーケットに示す必要がある。自腹を切ってVRに取り組むことは、必ずしも悪いことではないと、ミーカー氏は考えているという。

「誰かがまずリスクを取らないといけない。自腹でVRに取り組むことによって、全体をさらに前進させ、そして自分たちがより一層イノベーティブでいることができる。問題はエージェンシーのなかには、クライアントのためではなく業界の賞目的でこれを行う輩がいることだ」。

Yuyu Chen (原文 / 訳:塚本 紺)
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