エージェンシーはなくならない? 4つの立場から見る現状:AWA2017レポート #2

誰も炎上する広告を作りたいとは最初から望まないだろう。

世界最大の広告の祭典「Advertising Week Asia 2017(5月29日〜6月1日、東京 六本木ミッドタウン)」では、メディア、ブランド、テクノロジー、広告プラットフォームの各分野で、多くのセッションが提供された。そのなかから、本記事では「クリエイティブ運営の新しいモデル」というセッションから、クリエイティブを取り巻く環境が大きく変化しているいま、社内スタジオをもつブランドの課題、クリエイティブをサポートするエージェンシーの役割、そしてチームビルディングについて意見を交えた内容をまとめた。

登壇したのは、資生堂のグローバルコピーディレクター、ディミトリオス・ペトサス氏、ピュブリシス・ワン・ジャパン(Publicis One Japan)のヘッド・オブ・コンテンツプロダクション、ブレンダン・J・クラビッツ氏、デロイトデジタル(Deloitte Digital)のクリエイティブディレクター、松坂泰成氏、INAMOTO&CO.の共同創業者、レイ・イナモト(稲本零)氏の4名。それぞれの立場でのクリエイティブ運営の視点について語り合った。

社内にクリエイティブ機能をもったブランド

資生堂で長年クリエイティブに関わってきたペトサス氏は、インハウスのプロダクションをもつことのメリットにコスト面をあげる。しかし、コスト面で効率的であっても、「社内では宣伝・広報部とマーケティング部は、ある意味、エージェンシーとクライアントのような関係だ。社内コンセンサスを得るときにそれが自分の意見と一致することは非常に少ない」と、社内で働くクリエイティブスタッフとしての本音をいう。

とはいえ、インハウスの場合、一度プロジェクトが決定すれば、とても迅速に制作過程を進められるとペトサス氏。エージェンシーが入る場合よりも関わるレイヤーが少ないため、よりスピーディーに進行できるのだ。「インハウスのプロジェクトの場合、代理店が入る場合よりも大きなことができる。そして、それはよりオーガニックなものだ」。

これに対して、サンフランシスコのエージェンシー、AKQA やR/GAのトップを歴任してきたイナモト氏は、ブランドがインハウスのクリエイティブ機能をもつことについて、「短期間でブランドが利益を得やすいというメリットはある」という。「しかし、予算によってクリエイティブを決定させようとするならば、(インハウスで制作進行するとなると、常に予算に条件を引っ張られやすいため、)クリエイティブの幅が狭まり、結果的に利益を失うことになる」とも。

では、ブランドマーケターは社内のクリエイティブチームとどう向き合うべきなのか。また、エージェンシーは広告主に対してどのような姿勢で接していくべきなのか。

社内に外の視点を持ち込んでブランドを守る

ピュブリシス・ワン・ジャパンのクラビッツ氏(左)と資生堂のペトサス氏(右)。

ピュブリシス・ワン・ジャパンのクラビッツ氏(左)と資生堂のペトサス氏(右)。

ピュブリシス・ワン・ジャパンのクラビッツ氏は、ペプシの社内スタジオで制作された最近の広告が炎上した件に触れ、「エージェンシーの役割のひとつは、クライアントを守ること、そして世間で何が起こっているのかを敏感に察知していることだ」と語る。

登壇者の話題にあがったペプシ広告は、アメリカで深刻な社会問題化している人種差別のテーマを露骨に扱ったことで消費者の反感を買ってしまい、配信後1日で公開中止になった経緯がある。

これに対して資生堂のペトサス氏は、「米ペプシの目的はソーシャルコンシャスを呼び起こすことだったはず、しかし、それがオーセンティックではなかった。人気のある女優の顔だけがクローズアップされてしまった。米ペプシの炎上に関しては、誰もが一生懸命に突き詰めようとした結果、起こってしまったことだと思う。私はあの炎上が、社内スタジオだけの責任だとは思わない。あのようなことが起こった要因のひとつは、非常に多くの人間が携わっていたことで、意思決定が途中で歪んでしまった可能性が考えられる。おそらく、大量のカットを撮影しているときに、意思決定できる社内の誰かがチームに発言し、何かを要求したのだろう」と語った。

リスクはコミュニケーション不足からくる

ブランドが社内スタジオをもっていたとしても、クリエイティブの内容について、クリエイティブスタッフよりもマーケターの声の方が大きいことがよくあるとペトサス氏はいう。クリエイティブスタッフが意思決定をもつべきタイミングで、コンテキストを十分に理解しているといえないマーケターのひと言が、社内では通ってしまいやすいということだ。

広告主がもっとも恐れるべきブランド棄損は、社内スタジオだけの責任ではなく、マーケティングチームとのコミュニケーションが影響している。

また、イナモト氏は米ペプシの事例を教訓として、プロジェクトの進行過程の考え方を改める必要があるという。「プロジェクト進行での考え方の順番として、Why(なぜ)からはじめて、Who(誰)のためにやっているのか明確にし、What(なに)をHow(どのように)するのか、WhatとHowは最後に考えなければならない」。

「しかし多くの場合、はじめの段階にHow(どのように制作するか)ばかりを追求して、Why(なぜそれをするのか)を追求できていない時がある。なにを、どうやって、はテクノロジーや文化の違いによって頻繁に変わる。が、なぜそれをするのか、に関してはブランドの信念から来るものでなければならない」と語る。なぜそのキャンペーンを行なうのか、そのコンセンサスが広告主のなかで取れていないと、たちまちリスクを背負うことになるということだ。

エージェンシーはまだ必要なのか? という問いに対して、「まるで紙と本の関係のように、エージェンシーの仕事はなくならない」とイナモト氏。ブランドが短期的なプロジェクトを効率的に社内スタジオで制作するケースが増えている一方、長期的なプロジェクトにはエージェンシーが必要とされているという。

資生堂は社内にクリエイティブチームをもちつつも、同社の4つの主要ブランドのクリエイティブは外部エージェンシーにサポートしてもらっている。ペトサス氏も、エージェンシーの価値はなくならないと話す。「知性が求められる仕事が古くなることはない。が、デジタルの発展でその実行方法が古くなることはある。すると体験も古くなってしまい、機敏性も失われる。これからは紙でありながら中身はデジタルであるべき」。

チームは小さくあるべき

しかし、ブランドがクリエイティブワークのパートナーとして目を向けるのはエージェンシーだけではない。いまや、コンサルタント企業が同じ能力を提供できるようになっている。デロイトデジタルの松坂氏は、「広告主はパートナーに率直なコミュニケーションの仕方を求めるし、組織のオープン性も求めている。そこで我々のようなビジネスとして管理する力にニーズがある。それはコンサル会社がずっとやってきたことだ。投資に対するROIが何なのか、3~4年後はどうあるべきかを見据えられる力。その意味で、エージェンシーとコンサルの境目がなくなってきている」と述べた。

松坂氏がいう率直なコミュニケーションと組織のオープン性をブランドが求める背景に、エージェンシー側の人間が大勢で参加する打ち合わせという慣習がある。イナモト氏は、打ち合わせでの意思決定は小さなチームで行なうべきだと主張する。「大勢で打ち合わせに参加すると時間がかかり、決裁者の合意を得るのにも時間を要する。少しでもスピーディーに合意を得るには小さなチームでいくべき」と語る。

意思決定のプロセスに大勢の人が関わることで、プロジェクトに意図されていない要素がいつのまにか盛り込まれ、作り上げたクリエイティブがブランド棄損を招く事態はすでに起こっている。イナモト氏がいうように、そのプロセスが多いことも問題のひとつだ。

今回議論の中心となった、外の視点を取り入れること、社内コミュニケーションの充実、小さなチームは、デジタル技術の進歩で今後のクリエイティブ運営にますます求められるに違いない。

※DIGIDAY[日本版]はAdvertising Week Asia 2017のメディアスポンサーです。

Written By 中島 未知代
Image from AWA2017 and Getty Images