エージェンシー業界で「昇給・昇進」を勝ち取る交渉術:「人を脅すのは最善の方法ではない」

現職に就いてから1年以上が経ち、勤務先の広告代理店が新規顧客を獲得するのに功績があったばかり。となれば、いまこそ昇給を求めるのにふさわしいタイミングと思っているのではないだろうか? だが、交渉にはテクニックが必要だ――ごく些細な過ちを犯すだけで、昇給できなくなる可能性がある。

今回、業界トップクラスの広告代理店の幹部に、昇給や昇進に関して話し合うために上司に対してアプローチする方法と、その際にしてはならないことについて、アドバイスを求めた。要点は以下のとおりだ。

自分は昇給に値すると考えているなら、自分の主張を明確に述べればいい。だが、それを個人の問題にするのではなく、むしろ自社の利益と感じさせることも重要だ。報酬について上司と交渉する際に、どのように備えればいいかを紹介する。

期待された以上働きを示す

少し考えれば当然のことだが、現状の仕事をうまくこなすだけでは、速やかに昇給してもらうのに十分ではない――なにしろ、そのために雇われたのだから。だが、通常の職務を超える価値を付加したり、新しいアイデアをもたらす方法を見つけたりできれば、少なくとも一考はされるはずだ。

たとえば、アカウント管理者が、広告代理店のもっとよい売り込み方法についてアイデアを出したとしよう。「仕事ぶりに物言わせ、密かな自信をもって、それをはっきり示すことによって、自分の価値を高められる」と、ボストンの総合広告代理店コネリー・パートナーズ(Connelly Partners)の最高マーケティング責任者(CMO)であるジョエル・イデルソン氏は言う。

LAの広告代理店オムレット(Omelet)の共同創業者であるライアン・フェイ氏は、昇進については特に、自らの「階級」以上のパンチを繰り出させることが有効だと考えている。同社は従業員に、すでに担えることがわかりきっている肩書きではなく、それにふさわしい人物へと成長していけるような大きな肩書きを与えることがよくあるという。「米国大統領がその格好の例だ。大統領にはじめて就任した人は、仕事のやり方がまだわかっていないが、大統領の資格があることをその後に証明してきた」と、フェイ氏。

自分の要求を明確にする

昇進を求めるのは、ゲームをするのとは訳が違う。広告、デジタル、デザインを手がける総合エージェンシー、ドイチェ・ニューヨーク(Deutsch New York)の最高経営責任者(CEO)であるバル・ディフェーボ氏によると、一般的にやってはいけないのは、自分の要求をはっきりさせないことだという。

状況報告のために上司と会談する際には、目的を持って明快な態度で対面してから、考えた目標に向かって取り組むべき。目標を達成したら、細部にまで気を配りながら自分に値する待遇を求めるといい。ディフェーボ氏は次のように述べている。

「ときどき、自分のキャリアについて話したいと言われ、意見を求められる。そんなときには、率直に意見を述べている。それから、数週間後にフォローアップの予定が入り、前回の話し合いを受けた最新の状況を尋ねられる。そのときになって、はじめて、相手が最初の時点で『要求全体』を目的意識をもって明確に告げていなかったことに気づく」。

明確な理由を用意する

データは嘘をつかない。あらかじめ準備して、自分が昇給や昇進に値する理由を、具体的な例で理論武装するのが最善の策だ。自分がどんな努力をしてきたか、それがどのような形で自社の利益になってきたか、はっきり言えなければいけない。

ハバス・ワールドワイド・シカゴ(Havas Worldwide Chicago)の最高人材責任者ジェニファー・マーシャレック氏は、「業績の一覧と昇給や昇進に値する具体的な理由を用意してから、私のところに来てほしい」という。

待遇改善を希望する者が自社のために自分が行ってきたことや、その将来に情熱を傾けていること、また、そこで自分に果たせる役割などを伝えると、上司は高く評価してくれる。「ブランドと同じだ。感情に訴えると同時に、理性的であるのがベストだ」と、米総合広告代理店パートナーズ+ネピア(Partners + Napier)のCEOであるシャロン・ネピア氏は指摘する。

だが、やりすぎないようにと、デジタルマーケティングエージェンシー、アイクロッシング(iCrossing)の最高人材責任者を務めるデビッド・サントス氏は警告する。「昇給や昇進を求める理由を示すのはいいが、パワーポイント(PowerPoint)は使うのはまずい。自分は昇進してもいい頃だと思っている社員によるパワポのプレゼンを、幾度となく目にしてきたが、たいていの場合、これは昇進を求めるのに適当な方法ではない」。

タイミングを見計らって戦略的に

毎年恒例の勤務評定は、昇給や昇進の話題を持ち出すのに適当なタイミングであることが多い。だが、唯一のタイミングというわけではない。新規顧客の獲得や主要な賞の受賞も、昇給や昇進の要求を正当化するのにいいタイミングとなることがある。それに、空いたポストがあれば、昇進を求めるのには最高だ。自分にやり遂げられることを証明して、そのポストを要求すればいい。

「空いたポストがあれば、必要なスキルの向上を目指して努力し、それに就くべき理由を示せばいい。昇進を求めているポストの責任と役割りを理解し、そのポストに就くだけの実力があると言える理由をはっきり述べることが、とても重要だと思う」と、サントス氏は言う。

自己中心的になったりしない

業界の標準や他社の待遇を意識するのはいいことだが、それだけでは、昇給の理由にはならないだろう。「私がよく不満に思うのは、業界の標準や周囲の者の待遇だけに基づいて昇進や昇給を正当化する者たちだ」と、オムレットのフェイ氏は語る。

誰もが仕事以外のプレッシャーにさらされている。だが、それは昇給の理由にはならない。

「ある人物が最近、子どもが私立に通っていて、この間は新車を買い、家を買おうとしているから、昇給してもらう必要がある、と言ってきた。支出が増えていることには同情するが、それを理由に昇給させたくはない」と、コネリー・パートナーズのイデルソン氏は言う。

それに、当然、人を脅すのは最善の方法ではない。人質がいるわけではないのだから。

シカゴに本社を置くエージェンシー、アップショット(Upshot)で顧客管理担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるエレン・スローソン氏は、次のように述べている。「最近、大幅に昇給してくれなければ会社を辞めると、ある中間管理職の人間に脅された。辞職を認めたい気持ちになったが、そうしなかった。ただし、昇給もさせなかった。昇給を勝ち取るために脅迫という手段を用い、無礼な態度をとるというのは実にまずい考えだ」。

Tanya Dua(原文 / 訳:ガリレオ)