広告へのAI応用、エージェンシーの新たな戦場に

Google、マイクロソフト、Facebookが人工知能(AI)開発にしのぎを削るなか、常に新たなサービス分野を探し求めるエージェンシーにとっても、AIが次なる戦場となりつつある。

AIは基本的に、人間のように思考する能力を授けたマシンだ。シンプルな例として、人間はひとりの相手と会話できるが、AIは500人と同時に会話し、それぞれの会話内容から得るリアルタイムデータに基づいて判断を下せる。そう説明するのは、デジタルマーケティングエージェンシー、アイソバー(Isobar)米国法人のバイスプレジデント、デイブ・ミーカー氏だ。

広告とマーテケィングの文脈においては、AIは理論上、よりパーソナライズされたインタラクティブな消費者体験を実現する。具体的に期待されているのは、対象を絞ったプログラマティックバイイング、サイト訪問者の意思決定パターンの特定、ボットのような対話型販売、ウェブサイト上の検索エンジンやレコメンデーションエンジンの高度化などだ。そうした期待を、本記事の取材に応じたエージェンシーの幹部6人が語っている。

導入の第一歩はチャットボット

エージェンシー各社は現在、ハイテク大手が開発したAIを導入して、コグニティブ(認知)広告を提供したり、音声アシスタントをキャンペーンと連動させたりしている。たとえば、グループM(GroupM)傘下のMECは9月、IBMと共同でキャンベルスープ(Campbell Soup)のコグニティブキャンペーンを展開。AIの「ワトソン(Watson)」が、ウェザーカンパニー(The Weather Company)のサイト上のディスプレイ広告にパーソナライズしたレシピを作成した。このレシピは、ユーザーの位置情報を利用し、その場所の天気とユーザーの好みの食材に基づいて作り出された。

同9月、広告エージェンシーのクリスピン・ポーター+ボガスキー (Crispin Porter + Bogusky:CP+B)は、ドミノピザ(Domino’s Pizza)がFacebookの「Messenger(メッセンジャー)」を利用した注文ボットをリリースするのを支援した。それ以前の2月にも、Amazonの音声アシスタント「アレクサ(Alexa)」に、ドミノピザの注文に対応するスキル(アプリに相当)を追加。これによりユーザーは、アレクサにピザを注文したり、配達状況を問い合わせたりできるようになった。

「現在、AI分野でもっとも応用しやすいのは、チャットボットと自然言語処理だ」と、CP+Bのエグゼクティブ・クリエイティブ・テクノロジーディレクター、ジョー・カー氏は指摘する。「実用的なチャットボットは、導入しやすい第一歩だ。我々は、ブランドの声を反映し、楽しい体験を提供できるチャットボットをテストする予定だ」。

4年後の市場規模は5000億円

もちろん、AIの重要な応用分野には、クリエイティブも含まれる。クリエイティブエージェンシー、サーチ&サーチ(Saatchi & Saatchi)の「チームワン(Team One)」は、制作、構想、演出、編集をすべてマシンが担ったショートフィルムを、今年6月の国際広告祭「カンヌライオンズ」に出展。PR用の話題づくりのように見えるかもしれないが、エージェンシーが積極的にAIの言語を学び、AIの実装に創造性を注入することをめざしている表れでもある。

「どこかの時点で、AIはクリエイティブディレクターよりすぐれた広告を制作するかもしれない」と、ミーカー氏は語る。

確かに、期待は広がる一方だ。AIは実際、「ビッグデータ」と同じように、さまざまなものに結びつけられている。世界のAI市場は、2020年までに51億ドル(約5100億円)規模に達し、2015年からの年平均成長率は54%になると予測されている。この予測を発表した調査会社マーケッツアンドマーケッツ(MarketsandMarkets)の調査によると、メディアおよび広告部門はAI市場全体の最大シェアを占めると予想されるという。エージェンシーは、こうした大金の動きを予見し、チャンスをかぎつけている。たとえ現在のAI市場が、大半のエージェンシーが提供するサービスにあまり合致していないとしてもだ。

「サービスとしてのブランド」を提供

MDCメディアパートナーズ(MDC Media Partners)は11月9日、AIに特化したエージェンシー「ボーン(Born)」を設立した。MDCの投資部門KBSベンチャーズ(KBS Ventures)のパートナー、マイク・ニコラス氏が気づいたことがある。それは、エージェンシーはAIに精通していないがブランドをよく理解しており、一方で、新興企業はAIを熟知しているが技術をビジネスに応用する方法を知らない、ということだ。そうした現状認識から、テック企業各社による既存のフレームワークを検証するとともに、新興企業による新しいAIプラットフォームもすべて把握することを目指して、ボーンが設立されたという。そうすることで、ボーンはブランドのニーズにあわせ、AI技術の細部を調整できるようになる。

「エージェンシーのメディアに関する知識と、新興企業のAI技術に対する理解のあいだには溝がある。そこに橋をかけられなければ、我々の成功はない」と、ニコラス氏は語る。

ニコラス氏の説明によると、AIの設計プロセスは、グラフィックスやビジュアルよりも、キャラクターとユーザー体験に基づくという。そして、広告クリエイティブとしてのキャラクター開発は、語彙、言い回し、構文に注力する。たとえば、創造されたAIキャラクターが、相手の発言に反応してブランドのコピーを書くかもしれない。この場合、ボイスはブランドを反映している必要があり、ロボット的であってはならない。この種のキャラクター開発は、ビデオゲームや映画のシナリオを書くことに近く、従来の広告コピーを書くのとはかけ離れていると、ニコラス氏は指摘する。

「我々は、メッセージとしてのブランドではなく、文字通り『サービスとしてのブランド』を提供するエージェンシーだ」。ニコラス氏によると、ボーンは現在、フルタイムの従業員を4人しか雇っていないが、必要に応じて増員することになるという。

文脈の絞り込みが重要

別のエージェンシー、ヒュージ(Huge)は約2カ月前、AIの応用例としてバーチャルアシスタント「ダコタ(Dakota)」を開発し、従業員らと会話させている。ダコタは、専用の電話番号を割り当てられ、ブルックリンにある本社ですでに、管理業務の支援を開始している。

たとえば、誰かがダコタに「小売業界に詳しいのは誰?」と尋ねると、「エミリーです」などと答えてくれる。エミリーとの打ち合わせを設定したければ、ダコタが彼女のスケジュールを確認し、打ち合わせの予約を入れてくれる。

「我々がダコタから学んだのは、チャットボットとの会話においては文脈の絞り込みが重要だということだ」と、ヒュージのビジネス戦略担当マネージングディレクター、ベルナルド・ロドリゲス氏は明かす。「したがって、ブランドが単体のボットで苦情全般に対処するのは無理かもしれないが、請求に関する苦情など、特定の話題を扱うボットなら開発できるだろう」。

いかにAI専門チームを組織するか?

MDCとヒュージに加え、チームワンも社内に6人体制のAI専門チームを編成。IBMのワトソンとGoogleなどのパートナーやクライアントと提携し、業界カンファレンスでAI事業をアピールしている。こうした枠組みは、同社が今年4月に発表した仮想現実(VR)のラボに類似している。デジタル担当マネージングディレクター、W・ジョー・デミエロ氏によると、プロトタイプを作って特定分野に熱心なパートナーや社内の人材を募る、このようなラボ方式がチームワンにとって有効だと実証されているという。

「我々のVRラボはたった2人でひっそりと発足したが、いまや500人の大所帯になった」とデミエロ氏。「AIも同じことになると思う」。

もちろん、すべてのエージェンシーが、AI導入のために別会社や社内チームを組織する計画を立てているわけではない。グループMとアイソバーは、GoogleやキャンベルスープなどいくつかのブランドのAIキャンペーンを手掛けたが、両社はAIのために社内組織を変更していない。

「我々の基本的な考えは、AIが事業にもたらす戦術は、すでに当社の業務に組み込まれているというものだ」と、グループMの最高イノベーション責任者を務めるキャリー・ティルズ氏は語る。「当社のすべてのチームがAIを理解しなくてはならない。AIへの投資を示すために、専門のグループを編成する必要はないということだ」。

Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)
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